アジアの教訓:オフィスワーク再開に向けた従業員の離職防止対策

ダニエル・ショート 

世界的な新型コロナウイルス感染拡大による混乱を経て、オフィスワークを再開する動きが始まっています。従業員や顧客の安全という観点だけでなく、労働力の維持という観点からも、組織は従業員のオフィスワーク再開に向けた適切な対策を行う必要があります。 

多くの組織は、もはやコロナ禍前の考え方や働き方では成功できないと実感しています。 

コロナ禍となる前の従業員の離職理由は、報酬や福利厚生が十分ではないこと、あるいは職が安定しておらず、自身の成長の機会もないことでした。ですが今や、アフターコロナでの職場では、従業員はフレキシブルな勤務スケジュールで、かつ勤務スケジュールの一部では在宅勤務ができ、健康的なワークライフバランスが取れることを優先的にとらえています。従業員は仕事に自身のウェルビーイング(well-being)を求めており、そのような希望を優先しない組織は従業員の維持に苦戦しており、さらに多くの従業員がオフィスワークを再開する中、その苦労は続くでしょう。 

記録的な数の従業員が離職

現に今年は、多くの組織で従業員の離職率が異常に高くなっています。退職するのは仕事に行き詰ったり、不満を抱える従業員だけではありません。世界的に通信関連事業を展開するZeno Groupの2021年調査によると、職場に満足している従業員の48%が、転職の機会があれば前向きに検討すると回答しています。また従業員の54%が、自身が所属している組織は仕事の上での成長とキャリアモビリティ(社内における人材の流動性)を最も重視すべきだと回答しています。 

明らかに、アフターコロナの環境下において、従業員は興味のある仕事をし、自身が成長する機会があり、組織内で昇進することができ、在宅勤務ができるフレキシブルな勤務体制が続くことを強く希望しています。 

米国では、複数の業界で今年の従業員の退職ペース(離職率)が2020年に比べて増加しており、「専門的ビジネスサービス」、「製品製造」、「レジャーおよび接客」の業界で最も顕著に増加しています。米国労働統計局が発表した統計では、2021年6月の全業種における離職率は、2020年6月の数値に比べて33.3%増加しています。 

アジアでは従業員のウェルビーイングを優先 

従業員の離職率の下げるために、全産業の雇用者は適切なオフィスワーク再開を心がける必要があります。雇用者は 問題の原因を探り、それを解決する方法を見つけなければなりません。そのモデルケースとして、アジアのいくつかの企業の事例が参考になるでしょう、これらの企業は、大切な従業員の福利厚生を導入することで、従業員のウェルビーイングを最優先事項としています。その一部をご紹介します。 

・中国では、ヒルトンが感染症の専門家を交えて、オフィスワーク再開に向けた安全性に関するウェビナーを開催 

・インドでは、メドトロニックが従業員とその家族に向けたワクチン接種プログラムを導入 

・照明機器メーカーのシグニファイでは、従業員は週に2回程度、社内医師の診察を受けることができる 

・グラフィック・デザイン・プラットフォームのキャンバはフィリピンで、従業員とその家族向けにコロナワクチン接種を無料で提供 

・国際会計事務所EYは、在宅勤務をしている従業員の孤独との戦いを支援するために、趣味のクラブ活動を開始 

・多国籍企業のソフトウェアプロバイダーであるSASは、全従業員にメンタルヘルスデー(有給休暇)を付与 

これらの企業は全て、従業員の身体面、メンタル面、経済面での健康を優先しているため、従業員のウェルビーイング分野で上位にランキングされています。従業員が、自分は大事にされていると感じ、自身が所属している組織が健康的な職場であると考えている場合、離職する可能性は低くなります。 

Great Place to Workによれば、2021年のアジアの「働きがいのある会社」は、従業員にユニークな福利厚生を提供し、その組織が得た利益を公平に分配し、重要な決定に従業員を参加させている企業です。これらの企業は、経営者と従業員との間の公正、透明性、イノベーション、信頼を促進しています。 

従業員をつなぎ留めるには 

従業員の離職を防ぐには、雇用者は従業員のニーズを満たす努力をしなければなりません。従業員のウェルビーイング向上に向けた福利厚生を提供するなど、いくつかの対策が考えられますが、雇用者が検討すべき主な手段には次のようなものがあります。 

・新入社員、退職する社員、在職中の社員を調査し、彼らがなぜその組織に入社したか、退職するのか、勤務を継続しているのかを解明する 

・個人的な問題または仕事に関する問題を抱えている可能性のある従業員の支援策を打ち出す 

・幅広い関心分野に対応したキャリアパスを確立する 

・従業員が自身のスキルを構築し、前進できるように、社内で奨励する 

・優れた仕事を認めることにより、従業員が自身の価値を実感できるようにする 

・ウェルネス(健康維持)プログラム、フレキシブルな勤務スケジュール、在宅勤務、有給病気休暇など、従業員の意欲を高める特典を提供する 

従業員に対して、彼らが組織の成功に不可欠な存在であると実感させることが、今日の雇用者にとってこれまで以上に重要なタスクとなっています。雇用者が従業員にこの実感を与えることができなければ、かつてない数の従業員が離職し続け、組織の成功が遠のくでしょう。 

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