パンドラ文書の影響:汚職やタックスヘイブンをどう防ぐか

金融機関が透明性、説明責任、マネーロンダリングに関して求められる対応

1200万件近くもの機密財務記録が流出したパンドラ文書により、世界中の有力者の隠し財産が明らかになりました。彼らはどのように資金を隠しているのか、そしてなぜこの情報が重要なのか。トムソン・ロイター財団(TRI)は、K2インテグリティ社の役員兼金融犯罪リスク管理のグローバル共同責任者であるチップ・ポンシー氏に、機密財務記録の世界的な動向についてお話を伺いました。 

TRI:パンドラ文書は世界の汚職を暴く上でどのような影響を及ぼしたのでしょうか? 

ポンシー氏 :パンドラ文書による暴露は、まったく驚くべきことではありませんが、それでも大きな問題です。過去にもこのようなリークはありました。最近ではFinCENファイルや、パナマ文書もそうです。悪質業者の搾取がいかに蔓延しているか、それを抑止することがいかに困難であるか、ショックを受けずにはいられません。世界的な腐敗の深さと広さを思い知らされるとともに、問題が浸透していることを実感させられます。 

特に、パンドラ文書は、米国における有効性の問題を浮き彫りにし、富の源泉や受益権に関する追跡可能性、透明性、説明責任を高めるための政策が、特に企業という組織を通して強化されなければならないことを明らかにしました。これまでのリークでは、海外のタックスヘイブンに光を当ててきましたが、パンドラ文書では、特に米国の信託や会社設立のプロセスにおける受益者情報やディリジェンスの欠如という明確な問題点が示されています。 

TRI: 金融取引やマネーロンダリングの透明性、説明責任、管理強化を確保するために、どのようなプロセスが考えられますか? 

ポンシー氏: 特に米国では、最初に取るべきステップが3つあります。 

第一に、ペーパーカンパニーの悪用に対処することです。12月、FinCENは企業透明化法(CTA)の施行規則案を発表し、受益者情報の全国登録制度を構築して、米国内で匿名会社を設立する慣行をなくすためのアプローチを示しました。 

第二に、不動産部門への調査を徹底することです。不動産は投資の対象として正当に機能していますが、取引が不透明と言える分野でもあります。FinCENが不動産取引に関するルール作りを提案した事前通知は、正しい方向への一歩となるでしょう。これは透明性を高めることを目的としており、不動産取引関係者に報告義務を課すことについて意見を収集しているところです。 

K2インテグリティ社 チップ・ポンシー氏 

最後に、今あるルールを徹底することです。新しい規則を作るだけでなく、既存の規則を実施・強化するための規律が必要です。2018年にCDD(カスタマー・デューデリジェンス)規定が施行されましたが、不法行為者がペーパーカンパニーなどを通じて米国の金融システムに侵入している現状では、金融セクターによるCDDルールの実施が完全とは言い難く、その効果は懐疑的です。 

私たちは、新たに提案された規則の影響を受ける企業や不動産業界、金融機関と緊密に連携し、彼らがビジネスで直面する腐敗リスクをよりよく理解し、管理し、そして軽減することを目標としています。 

TRI: 企業の透明性に関する法律は、今後、企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか?法制化は正しい方向への一歩なのでしょうか、それとも他にも何かが必要なのでしょうか? 

ポンシー氏:法制化は 20年にわたる世界的な基準設定と国内政策の立案の上に立つもので、正しい方向への一歩と言えるでしょう。市民は金融システムの透明性を高める必要性を認識しており、この法制化が米国で設立され、次第に世界の金融システム全体で銀行業務を行う組織に波及し、透明性は世界基準となっていくと予測します。 

一方で、CDD規定と同様に、新たな規則がどのように作られ、実際に運用されるかによって、法が実際に機能するかどうかは決まってきます。現時点ではルール作りの過程にあり、まだ答えが出ていない核心的な問題が多数あります。報告義務のあるのは誰か?報告義務を負うのは誰か、どのように情報を報告するのか。情報の検証や更新はどのように行われるのか?これらの疑問に対する回答が得られれば、CDD規定を補完する形で、会社設立に関する透明性を高める規定が制定されることになります。 

当社は、まだこの規定案に対する準備が整っていない法人顧客に対して、規定案で指定されている受益者情報を文書化し、提供する準備を始めるようアドバイスしています。技術的に報告対象に該当しない法人でも、将来の報告義務に先んじるために、組織構造を十分に文書化しておくことをお勧めします。 これらの義務は、米国内であっても、顧客デューデリジェンスの義務があるグローバルスタンダードに準拠した金融機関であろうと、企業が銀行口座を開設するために作成しているものを実質的に反映するものであるべきです。 

TRI:米国に焦点を当てると、パンドラ文書により、米国を拠点とする206の信託が15の州で10億米ドル以上の資産を保有していることが明らかになりました。デラウェア、フロリダ、サウスダコタ、ネバダ、ニューハンプシャーといった州が、資産を隠し、税負担を最小化しようとする人たちの世界的なホットスポットとして浮上しています。このような秘密の抜け穴を塞ぐために、米国政府は何ができるのでしょうか? 

ポンシー氏: 汚職との戦いに勝利するためには、政府だけでは不十分だということは明らかです。誰もがオーナーシップを持っているのです。しかし、米国政府はこうした問題を強く認識しており、「腐敗対策に関する政府全体戦略」を発表し、米国が国内外での腐敗をどのように抑止しようとしているのかについて説明しています。CTAはこの戦略の一環であり、悪質な業者が法人、特に架空のペーパーカンパニーを悪用するのを防ぐことで、米国の金融システム内の抜け穴を塞ぐのに役立つとされています。 

さらに一歩進んで、米国政府は、よりリスクの高い法人を扱うためのベストプラクティスを明確にし、政治的に露出している人物や汚職リスクの高い人物が所有または経営権を握っている法人を特定するために、より多様なアプローチを行うことができるようになるでしょう。そして、その規制の多くは、2020年のAML法や今後予定されている会社設立の改革による規制が継続的に更新、改定される際に反映されることになるでしょう。 

現実には、金融機関、法人、金融システムのゲートキーパーを含む政府と民間セクターが、世界の汚職への取り組みを進展させるために協力する必要があるのです。 


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