米国のサプライチェーン取引においてESG・気候変動関連の義務化が重視される理由

気候関連課題は、米国のサプライチェーンにおいて重要な要素となっており、多くの企業が取引先やサプライヤーに対して契約条項でより厳しい基準を求める傾向が顕著になっています。

環境・社会・ガバナンス(ESG)課題は、気候関連義務を含め、サプライチェーンにおいてますます重要な課題となってきています。交渉力のある大企業がこの優先課題に率先して取り組み始めています。

企業(小売業を含む)は、サプライヤー行動規範(または、ベンダー行動規範)を実施することにより、取引業者がESG要件に従っていることを確認しています。一般的にこの行動規範は、製造業者、供給業者などのサプライヤーが、企業に商品を販売、または取引するために満たすべき、公正で安全な労働や環境に関する最低限の要件を定めているものです。

行動規範は通常、企業のウェブサイトなどに掲載され、時には、商品やサービスを購入する際の契約書に参照として盛り込まれることもあります。コンプライアンスに違反した場合、業者は企業と取引する機会を失うなど、罰則の対象となることがあります。行動規範は企業のESGへの取り組みを示すものではありますが、サプライチェーン全体でESGの価値観を醸成する上でどの程度の効果があるかは定かでありません。

サプライヤーに求められる行動規範

ESG関連の取引条件は、サプライチェーンとの契約に直接組み込むことができます。実際に、契約における法律の遵守を補完するために、サプライヤーとの契約においてESG関連事項に誓約を求めるケースが増えています。契約締結後に要件に違反することは、契約自体の違反となり、違反したサプライチェーンは法律で定められた公的・私的な救済措置に加え、契約上の責任を負うことになります。

ESG関連条項には以下のようなものがあります。

紛争鉱物条項

商品の売り手に対し、紛争鉱物を含まないことを保証するよう求める条項です。紛争鉱物は、ドッド・フランク法の下で公布された紛争鉱物規則に基づく報告義務や、大統領令13671に基づく外国資産管理局の制裁の対象となる可能性があります。この規則は、コンゴ民主共和国などのリスクの高い地域で人権侵害を行い、紛争を助長している武装集団の重要な資金源(紛争鉱物の取引)を削減することを目的としています。

強制労働条項

米国の輸入業者が、自社のサプライチェーンなど、海外の製造業者や供給業者による製品の生産において、いかなる形態の強制労働も禁止するための条項です。この条項は、囚人労働や強制労働、児童労働を含む強制労働で製造された商品の米国への輸入を禁止する1930年関税法第307条(19 U.S.C. 1307)の遵守を促進するものです。

気候変動に配慮した条項

温室効果ガス(GHG)排出量の削減をサプライヤーに求める条項など、気候変動に配慮した具体的な条項が売買契約に盛り込まれることはまだ一般的ではありませんが、この状況は変わりつつあります。その背景には、特に温室効果ガス排出量に関する売買契約において、この条項の適用が標準化してきていることがあります。

例えば、企業がGHG排出量を特定、算出、報告することを目的とした企業会計報告基準であるGHGプロトコルが定義するスコープ3基準に従って、企業の排出量を分類し、算定することは、一般的に実践されています。この3つのカテゴリーは、企業が自ら生み出す直接排出量(スコープ1)、企業が購入するエネルギーからの間接排出量(スコープ2)、そして、購入した商品の製造に伴う排出量や商品を購入した顧客からの排出量など、企業がバリューチェーン全体で間接的に責任を負うその他のすべての排出量(スコープ3)で構成されています。当然ながら、スコープ3は最も広範囲であり、測定が困難です。

サプライチェーンの契約において、気候変動に配慮した条項利用が増加するもう一つの要因は、証券取引委員会(SEC)が公表した公開企業向けの気候変動リスク開示規則案だと考えられます。この規則案は、SECの規則案の直接の対象ではないものの、上場企業のサプライチェーンの一部である非上場企業にも影響を与える可能性があります。例えば、上場企業がSECの開示義務を果たし、投資家に情報を提供するために、その交渉力を利用して、小規模な取引先に気候変動関連の義務を課すことも考えられるでしょう。

チャンセリー・レーン・プロジェクト

気候変動に配慮した契約条項の活用に対して、さらなる支援が期待されています。例えば、英国に拠点を置くThe Chancery Lane Projectは、様々な分野や管轄区域の弁護士やサステナビリティの専門家と協力し、気候変動対策を推進し、ネットゼロへの移行に向けた契約書作成を調整するために適用できるフリーアクセスの契約条項一式をこれまでに100以上作成し、提供しています。

この契約条項は、スコープ3排出量の削減を奨励し、持続可能性に関する積極的な行動を促進するために利用することもできます。この条項はイングランドとウェールズの法律に基づいていますが、米国を含む他の司法管轄区でも適用できるよう、取り組みが始まっています。


Global Trade Content

グローバルな貿易規制の変化に対応

一つの国の国際貿易規制データを管理するだけでも大変な作業です。同様のデータを取引対象となる複数の国について扱うとなると、圧倒的な労力を必要とします。トムソン・ロイターのONESOURCE Global Trade Contentがあれば、210を越える国と地域の最新の貿易規制データにアクセスできます。また一元化されたリポジトリから、関税表、貿易協定の原産地規則、OGAやPGAによる輸出入管理など広範囲にわたる国際貿易の規制内容を参照できます。世界各地からリアルタイムで更新される税関データを入手し、所在地や言語に関係なく全てのユーザーとの情報共有が可能です。

Global Trade Contentの詳細はこちら


ビジネスインサイトを購読

業界最新トレンド情報をアップデート

購読する