トムソン・ロイターのテクノロジストでフューチャリストのジョセフ・ラジンスキーが、最新テクノロジーのメタバースとそれが法律業界に与える影響について語りました。
今年2月、アレントフォックス・シフ法律事務所は、メタバースゲーム ディセントランドの土地を取得し、米国の大手法律事務所として初めて「メタバースに参加」したと発表しました。このことは、法律家が最新のテクノロジートレンドをいかに真剣に受け止めているかを浮き彫りにしています。トムソン・ロイターのテクノロジスト兼フューチャリストのジョセフ・ラジンスキーが、メタバースが法律分野にどのような影響を与えるのか、また、弁護士が準備すべきことをO&A形式で解説いたします。
アジアン・リーガル・ビジネス(以下ALB): メタバースと弁護士の心構えについて執筆された記事を拝読しましたが、近い将来、メタバース利用がどの程度広まるとお考えですか?また、弁護士はこのテクノロジーの進歩に対して、どのように十分な態勢を整える必要があるのでしょうか?
ジョセフ・ラジンスキー(以下J. R.): 近い将来というのが3年から5年ということであれば、メタバースが先進国の大部分の人々によってさまざまな形で利用されるようになると断言できるでしょう。メタバースの利用はすでに始まっています。
メタバースを可能にしているのは、2つの新たな推進力です。1つは、証明可能かつ変更不可能な方法で情報を保存するというユニークな方法であるブロックチェーン。2つ目は、新たに登場したハードウェアがカギを握っています。アップル社が来年あたりにバーチャルリアリティ(仮想現実)(VR)または複合現実(MR)ヘッドセットを発売すると、もれなく世界中がメタバースに向かわざるを得なくなるでしょう。ちなみに、VRは作られた映像の世界で完全なる臨場感を味わえるのに対して、MRは現実世界に身を置いた上で、デジタル画像を重ね合わせることができるという違いがあります。
この数年間、何千人もの弁護士と話してきて感じたことは、彼らは間違いなく非常に優秀ですが、ある限界要因があります。つまり、これから何が起こるのかに目を向ける余裕がないのです。これらの最新テクノロジーはすべて、弁護士業務だけでなく、何らかの形で多くの法務業務に影響を与えるでしょう。
最低限でも、弁護士は「4大新テクノロジー」つまり、AI、ブロックチェーン、ワークフロー、そして「新技術の詰め合わせセット」に注力する機会に迫られるでしょう。こうしたテクノロジーについて学ぶ場は数多くありますが、グーグルアラート、これらのトピックに関するツイッターのスレッド、WIREDのようなメディアコンテンツなど、誰もが知っているような定番のものを活用するとよいでしょう。
ALB: メタバースは、弁護士にどのような機会をもたらすとお考えですか?
J. R.: 今現実にある世界において、デジタルだけが存在することを想像してみてください。それは、非常に臨場感があり、また双方向性を持った世界です。そして、現在私たちが実生活で抱えているすべての問題、課題、利益や困難などを推定したうえで、そのなかで弁護士がどのような役割を果たすかを考えてみてください。結果的には、現状と似たようなものでしょう。当初、弁護士が関与するのは、知的財産(IP)問題や著作権に関わるものが多いでしょう。
その後、保険や契約の不一致が生じますが、これらの契約問題は、メタバースが構築されるプラットフォームの性質上、興味深いものになるかもしれません。ブロックチェーンとスマートコントラクトを利用しているので、これらの問題は比較的簡単に解決できる可能性が高く、弁護士はより複雑な問題の解決に専念することができるのです。
ALB:デジタルの世界やテクノロジー環境との関わりは、私たちの仕事の仕方や遂行する仕事の種類にどのように影響するのでしょうか?
J. R. :私たちが今後ますますデジタルな世界に移行していくと仮定するならば、その空間を取り巻くあらゆる要素の重要度が増すでしょう。
まず、人工知能(AI)から申し上げると、アルゴリズムが私たち人間に代わって意思決定を行うことが増えていくでしょう。もちろん、これには多くの法律業務も例外ではありません。アルゴリズムの機能は、最初は単純かもしれませんが、次第に非常に複雑になり、私たちを決定事項や作業から解放してくれるようになるでしょう。
ブロックチェーンは、トラストレス(つまり、第三者を信用する必要がない)データベースであり、AIとブロックチェーンの両方が連動して、自動化された非常に卓越したワークフローを開始することができます。プライベートでもビジネスでもメタバースに移行すると、家、靴、アート、コンサートのチケットなど、あらゆるものがブロックチェーンを利用した非可溶性トークン(NFT)によって数値化できるようになります。プロセスは、よりデータとAIを活用するようになり、人間の介入に頼らない意思決定が行われるようになるでしょう。
このようなことは恐ろしいと思われるかもしれませんし、そうなる可能性もあります。だからこそ、このような事態が進行する際には、その意味を理解しながらも、前進する道を導くために、最高の法務知識を持った人材が必要となるのです。私たちは、現存する世界のすべてをテクノロジーに代行させるのではなく、できる限り人間らしく今あることを進化させるべきでしょう。
当インタビューは、トムソン・ロイター香港在住ジャーナリスト、エリザベス・ビーティーが執筆し、Thomson Reuters Asian Legal Businessに掲載されたものです。
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