ESGに関するガバナンスを向上させ、法的リスクを軽減するための方法

ESGの取り組みや実践について企業が報告・発言する内容に関する法的問題のリスクを軽減するために、企業の取締役会はどのような行動を取ることができるでしょうか?

投資家、消費者、そして世界的な関心が、環境問題にとどまらず、多様性や包括性、社会的公正、ガバナンスにまで広がっています。それに伴い、世界中の規制当局が関心を高めていることから、これらの環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する企業の報告や公表に対して新たな監視の目が向けられるようになっています。

この1年半の間に、ますます多くのステークホルダーがこのような問題に注目し、企業の役員会は、企業がどのように情報を報告し、メディア等で企業行動に関するメッセージを伝えているかに注意を払うことを余儀なくされたのです。 実際、上場企業がESG分野で開示すべき内容や、ESG課題に関する発言に関する規制の新設・提案により、企業の財務実績や株価に対するリスクが高まっています。レイサム&ワトキンスの証券訴訟・専門職責任プラクティスのパートナーでグローバル副会長のコリーン・スミス氏は、「取締役には、ESGリスクについて考え、その分野で適切な監督を実施するためのシステムを検討すべきという圧力が確実にかかっています」と語っています。

取締役への法的請求が増加

スミス氏と同僚のサラ・フォート氏(レーサム&ワトキンズのパートナーでESGプラクティスのグローバル共同議長)によると、企業の取締役が訴訟の対象になることが増えているそうです。取締役に対する裁判の件数が増加しており、次のような訴訟があります。

・監督不行き届きに基づく受託者責任違反とみなされ、訴訟提起される

・ESGに関する主張に基づき、受託者責任を果たしていないと取締役が非難される。

・株主により裁判を通じて取締役会の多様化を求める(ただし、この取り組みはまだ成功していません)

新しいリスク低減の方法

法的措置のリスクを軽減するために、企業の取締役は十分な監督を行うための仕組みを確保する必要があります。しかし、その前に多くの企業は、ESGリスクを他の企業報告やコンプライアンス要件と同じように扱う必要があるのです。つまり、企業はESGに関する企業データの収集、管理、統制をより厳格に行う必要があるということです。フォート氏とスミス氏は、ESGに関するガバナンスを向上させ、法的リスクを軽減するための方法として、以下の項目を実施することを推奨しています。

部門横断的なデータ収集、管理、統制の改善

取締役会の法的リスクを軽減するための最大の課題は、ESGデータそのものです。現在、ESGに関する情報源は、多くの部門にまたがっており、複数のデータベースから簡単に照合する 技術的な能力がないまま、サイロ化したシステムで保管されています。

テクノロジーソリューションへの投資は、データの透明性と情報の整合性を理想的に改善することができるため、法的措置のリスクを削減するために必要な最初のステップとなるでしょう。現在、ESGデータセットを保有する様々な企業部門が報告可能な形式にするために、データを手作業で修正することに膨大な時間が費やされています。この手作業は、データの誤りを引き起こす可能性を高め、企業全体に悪影響を及ぼし、取締役会の管理能力を阻害し、最悪の場合、ESGトピックに関する訴訟につながる虚偽表示を公にする恐れがあります。

政治的リスクの不透明な環境を乗り切る方法について十分議論すること

企業の取締役は、企業のESG課題にまつわる政治的リスクについてますます懸念していると、フォート氏は述べています。興味深いことに、取締役会が一丸となって政治的リスクへの対策を効果的に実施するための重要なリスク軽減策は、取締役会自体における健全な協力と議論の度合いであると、付け加えています。

取締役会が機能していない予兆の1つとして、健全な議論がほとんど行われず、反響室になってしまうことが挙げられるとフォート氏は説明し、「主要なステークホルダーに適切に対応するための多様な考えや異なる視点は、リスクを回避するために重要なことです」と付け加えています。

ESG課題に関する役員の専門知識の文書化を強化する

ESGは人類が現在直面している多くの主要課題であるため、すでに、それぞれの主要課題に関心を持ち、 専門知識を有している役員が取締役会にいる可能性が高いという点でフォート氏とスミス氏は一致しています。ただ、どのような課題に関心や専門性があるかは、必ずしも役員の経歴からはわからないかもしれません。

「ESGに関する問題の見落としに対して企業が適切な対応をしなかったというクレームに企業が防御する場合、取締役会や委員会の議事録、取締役の専門知識や経歴を反映した資料など、十分に文書化されたプロセスを示すことができると便利です」とスミス氏は述べています。また、それらの審議や特定の分野における取締役の経験値が低くなっていないことを確認することも重要です。

同様に、取締役会と経営陣がリスクについてどのように考えているかを詳細に文書化することも、取締役会の管理不足が原因で起こりうる訴訟を軽減する方法として重要です。

フォート氏がリスク軽減に最も効果的だと考える仕組みのひとつは、ESGのトピックを多角的に分析することだという。ESGの分野では、リスクのレベルやその内容が急速に変化する可能性があるため、ESGの問題は、幅広い視点から、複数の議論を通じて提起されることが重要です。

具体的には、取締役会が企業のESGリスクとその影響の大きさを把握するために、現在どの ように事業や戦略に影響を及ぼしているか、またその可能性について常に幅広い視点を持つことが求められています。

そのため、取締役会は意図的に経営陣、ESG部門、法務部門、その他の関係部署からの視点を求め、企業の急増するリスク許容度を把握する必要があります。また、企業のリスク管理システムが、自社やサプライチェーンにおける重要なESGリスクをどのように考慮し ているかを理解する必要があります。これらを確実に実践することで、相乗効果をもたらし、企業の取締役会がESG領域における現在及び将来のリスクを軽減するための最良の戦術となります。


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