ESGデータに管理されないために

多くのステークホルダーや規制当局が企業のESGデータを求めるようになると、情報の収集と管理を手作業で行うことになり、手間がかかるようになります。

インフォシス・ナレッジ・インスティテュートの最新レポートによるとESGは収益につながることが証明されており、企業幹部の90%がESG支出によって中程度または大きな財務的リターンを得たと報告しています。また、現在ESG活動に予算の5%を費やしている企業が、営業または資本予算を調整してESG支出を15%まで増加させると、1%の利益増加が期待できます。

ESG投資と全体的な財務パフォーマンスには相関関係があるものの、2023年のマクロ経済環境の不確実性を考えると、現在の経済状況では企業の予算が障害になる可能性が高くなります。実際、企業がESG目標を達成し利益成長を維持するためには、より多くの財源とオペレーティングモデルの変更が必要です。さらに、規制や格付け機関やサプライヤーからの要求などに対応するために必要なデータを手作業で処理する時間とリソースがかかるため、これらの目標達成にはコストがかかるというイメージがあります。

多角的な複雑さが、対応を消極的なものに変える

企業は将来の規制要件を満たすために必要なESG情報の手動収集と集計の慣例から、対処が後手になりがちです。そのため、残念ながらESGに対して統合的、積極的、戦略的なアプローチをとるよりもだらだらと前に進んでしまっているのです。

管理会計士協会(IMA)の企業報告研究・政策ディレクターであるシャリ・リタン氏は、「少なくとも財務・会計の観点からのESGの動きの大部分が、企業全体のアプローチではなく外部報告によって推進されてきました」と述べています。

さらに、とある調査によると、半数以上の企業がいまだにESGデータをスプレッドシートに保存しており、これはサステナビリティデータの収集、集計、分析、報告において、企業が消極的なアプローチをとっていることを最もよく表している要素のひとつといえます。

将来の規制要件を満たすために必要なESG情報の手動収集と集計の惰性から、企業の対応が消極的になりがちです。

さらに、これらの取り組みを停滞させる複雑な要因として、データセットが企業全体で縦割りになっていることや、特定のESGデータセットの所有者を定義する際に部門横断的な透明性が欠如していることが挙げられます。これにより、データの収集、集計、可視化、報告などの各段階で、どのような人物が関与する必要があるのかを判断することが難しく、その過程で適切なレベルのコントロールとデータガバナンスが必要となります。また、各データセットのプロセスを最終的に所有するのは誰なのか、どの部門なのかが不明確であることも複雑性を高めている一因です。

データに管理されないようにするには

重要性評価では格付け機関やサプライヤーなどからの多くの情報要求とともに重大な懸念が特定された場合、1つのデータセットに対する前述の課題を10倍すれば、企業がいかに圧倒され、混乱するかは容易に理解できるでしょう。

実際、ある専門家委員会は標準化された定義、データ形式、報告基準をもとに簡素化し統一するのは、まだ18〜36ヶ月先のことだと指摘しています。

しかし、プロセスを簡素化しデータに対する要求の高まりに備えるための方法はまだあります

同業他社との協働 – もう一つの課題は、ESGデータの報告方法や積極的なESG戦略の策定と実行のプロセ スについて注目されていないことです。これには、ESGレポートが企業内でどのように実施され、業界間でどのように統合されるかが含 まれます。

ESG、重要課題、効率化を促進するツールの要件を定義するためのセクター基準を積極的に定義するために、業界の仲間を集める努力を率先して行うことは、この問題を短時間で解決することになります。このプロセスを明確にするために、リタン氏はIMAがスポンサー機関委員会に参加していることを挙げ、どのように企業の財務部門が既存の内部統制ガイドラインを標準化し、財務分析・報告インフラに持続可能なビジネスとESG原則を適用の助言をするのかを紹介しています。これらの取り組みには、収集から報告までのESGデータの旅路をたどる大量のESGデータセットや非構造化データに対応するために、システム、プロセス、監視構造をどのように進化させる必要があるかについての提言も含まれています。

ITツールやその他のソリューションの利点の1つは、各ステークホルダーがどのような問題に関心を持ち、そしてどのように与えられたフットプリント内でこれらの問題を定量化し、測定するかを定義する最初のステップからより良い自動化と統合を可能にすることです。Benchmark Digital ESGのCEOであるムクンド氏によれば、これはデータを特定のカテゴリー(例えばスコープ1、2、3)や特定の場所に分割する際に特に重要なことです。

ソフトウェアツールが役立つもう一つの方法は、ESG戦略に参加する各個人に特定の役割を割り当てることです。ムクマンド氏は「特定の活動に従事している人は自分の役割がどこにあるのかを理解しているので、ESG戦略に関連付けることができます」と述べ、このようなツールには情報管理、データガバナンス、監査可能性のための機能も組み込まれていると補足しています。

ESGとITツールの選択が絡む現在の課題は、サステナビリティ、財務、法務、税務・会計など、複数の企業内機能間で希少なリソースを奪い合うことです。しかしリタン氏は、財務・経理部門は、分析や報告のための既存のインフラとともにデータの強固な監視の管理、内部統制の理解、監視のためのシステムやプロセスの構築といった経験を持っているため、サステナビリティに関するテクノロジー投資がまず必要になると論じています。

将来にかけてESGエコシステムの複雑さは、管轄地域間の追加規制要件と定義や報告の標準化の欠如に起因しており、改善する前にさらに悪化する可能性が高いでしょう。


Supply Chain Compliance

サプライチェーンを可視化して、リスクを軽減

ESGの重要性が認識されるにつれ、サプライチェーンにおける情報管理の必要性はかつてないほど高まっています。グローバルサプライチェーンにおける取引企業との連絡、管理、トラッキングを効率的に行い、リスクを特定・軽減し、コンプライアンスを維持する必要があります。CTPATやAEOなどの制度や強制労働、紛争鉱物の課題、製品の安全性や、レイシー法などESGの観点から、デューデリジェンスと情報収集が不可欠です。トムソン・ロイターの ONESOURCE Supply Chain Complianceは、サプライチェーン全体の可視性を高め、コンプライアンスを管理し、リスクを軽減するための統合的なソリューションです。データ集約型のテクノロジーによって、企業、部門、個人を問わず調査、依頼、通知をオンラインで実施、管理することができ、ペーパーレスを推進し、管理コストと業務負担を軽減することができます。


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