ESGが問うパーム油生産~金融機関のコンプライアンスとイメージ低下のリスク~

ヘレン・チェン レギュラトリー・インテリジェンス

インドネシアとマレーシアの規制当局は現在、パーム油産業の改革を進めており、これは環境、社会、ガバナンス(ESG)の課題の評価に携わる金融機関や投資家に影響を及ぼす事業でもあります。このように産業を変革する際には、持続可能性認証スキームの不一致や企業イメージリスクが課題となります。 

生産国では

インドネシアとマレーシアは、世界有数のパーム油生産国であり、パーム油は、パーソナルケア製品や食料品から、バイオディーゼル燃料に至るまで、さまざまな日用品の主成分になっています。インドネシアとマレーシアは、世界で流通するパーム油のそれぞれ50%以上、25%以上を生産しています。この産業は、両国の国内経済の大部分を占めており、財政の安定の上でも重要な役割を果たしています。 

パーム油の世界的な需要は、特にアブラヤシを栽培している農村部において、生活水準の向上に役に立っています。地域の金融市場および金融サービス分野も、ここ数十年間、この成長によって恩恵を受けています。 

しかし、業界の慣行が厳しい目にさらされるようになったことから、投資家、関連企業、規制当局の他、消費者向けの製品にパーム油を使っている企業についても、ESGリスクが生じています。アブラヤシの植林のための開墾が大規模な森林破壊に結びつくということで、ますます喫緊の気候変動リスクと見なされるようになっています。 

世界的な動向

2020年にAP通信が実施した独自調査によって、パーム油産業のESG問題に関する企業イメージ低下のリスクがさらに明確になりました。AP通信は、その調査で、インドネシアとマレーシアの複数のプランテーションで発生している強制労働と人権侵害の事例について報告しました。しかも、このプランテーションには、政府が所有する企業の他、ロレアルやプロクター・アンド・ギャンブルなどの世界的なブランドと取引するサプライヤーのものも含まれていたのです。 

米国は昨年、強制労働と人権侵害に関連する申し立てに対応して、マレーシア最大のパーム油生産企業、FGV Holdingsからのパーム油輸入を禁止しました。欧州の規制当局も近年、パーム油産業による広範な森林破壊への対応の必要性に言及し、インドネシアからのパーム油輸入を制限する方向に移行しています。欧州の再生可能エネルギー指令(RED II)のような規制動向により、産業界に対してさらにパーム油への依存度を下げるよう圧力が強まっています。 

規制動向 

このようなESG問題に対する意識の高まりにより、インドネシアとマレーシアの規制当局は、問題のある産業に対峙し、それぞれの国で同産業と関連のある広範囲の経済がより持続可能な慣行に移行できるかどうかを評価せざるを得なくなりました。 

2019年以降、インドネシアは、Indonesia Sustainable Palm Standard(ISPO)に基づいて、特定の土地が、環境的に持続可能なパーム油栽培に使われていることを示した土地証明の発行を進めています。ISPOは、大規模なパーム油企業において義務づけられていますが、小農場にとっては任意となっています。同時にISPOは、パーム油生産を環境的により持続可能なものにするというインドネシア政府の長期計画の一環でもあります。しかしながらISPO標準は、Roundtable on Sustainable Palm Oil(RSPO)など、国際的に認められている慣行に比べると、まだ甘いと考えられています。 

一方でインドネシア政府は、パーム油産業のESGリスクに対応するために他の地域で採用されている厳しい政策に対して、異議を唱えています。昨年、インドネシアは、EUのRED IIについて、その政策がパーム油産業に対して差別的であるとして世界貿易機関(WTO)に異議を唱えました。 

マレーシア政府は、第12次マレーシア計画において、向こう9年間で二酸化炭素排出量を45%削減するという項目を含む、意欲的なESG目標を設定しました。この目標を達成する上で、パーム油産業の改革が必要なことは言うまでもありません。 

第10次マレーシア計画など、これまでの計画では、パーム油産業の増進や拡大に重きが置かれていました。第12次マレーシア計画では、パーム油から作ったバイオディーゼル燃料の利用拡大の推進など、この産業の成長を促す要素もありますが、同時に、パーム油産業などの環境負担が大きい産業から、より持続可能な分野へとマレーシア経済を移行させることが急務であることも強調しています。 

マレーシアもインドネシアと同様、環境の持続可能性の評価のための認証スキームの構築を独自の基準であるMalaysian Sustainable Palm Oil(MSPO)を策定し、尽力してきました。規制当局は、すべてのパーム油生産企業に義務付けられているこのスキームによって、同国の森林破壊を減退させることができていると評価しています。世界資源研究所は、2017年以降、マレーシアの森林破壊の速度が毎年減退していると報告しています。 

企業の取り組み

一部の多国籍企業は、国際的に広く受け入れられているRSPOに対し、地域的な標準であるMSPOなどの基準承認に関しては消極的です。マレーシアの複数のパーム油生産企業は、特に労働と社会的慣習に関連する事項でRSPO標準に準拠していないという理由により、ブラックリストに登録されています。米国の食品コングロマリット、ゼネラル・ミルズ社は、マレーシアの大手生産企業、FGV社とサイム・ダービー社のパーム油について、不買命令を出しています。これは、米国向けに限らず、欧州、オーストラリア、日本向けの商品についても同様です。米国の規制当局は、強制労働の申し立てに基づいて、昨年からFGV社とサイム・ダービー社からの輸入を禁止しています。 

金融機関にとっての意味 

インドネシアとマレーシアのパーム油産業でのESGリスクおよび持続可能性に関連する取り組みには、同地域の投資会社と金融サービス企業に対して広範なコンプライアンスを証明するという意味があります。第12次マレーシア計画の下で実施されている政策のように、投資の優先順位をよりESGに配慮した分野へ移していくという政府主導の改革は、民間資金と公的資金を責任投資にシフトさせる圧力となり、改革を加速させる役割を果たしています。 

金融機関にとって一貫性のない地域認証標準と多国的認証標準の間で投資を評価することは困難です。同時に、株主と規制当局は、これまで以上に責任投資慣行に関わるビジネス活動について厳しく精査するようになっており、企業の過失が認知された場合、それが重大なイメージ低下のリスクにつながってしまいます。 

イメージ低下のリスク

資産運用会社、ブラックロック社は責任投資を積極的に支持し、同社の「新しい投資基準」において持続可能性を追求することを公言している企業ですが、プロクター・アンド・ギャンブル社によるインドネシア企業からのパーム油調達に対する株主の抗議を支持しながらも、同時に当該企業に投資していたことが批判されました。投資家のロビー団体は、同社に対し適切なデューデリジェンスやその他の是正措置をとるべきとして圧力をかけ、同社のESGに対する姿勢の不健全性に注目が集まりました。 

パーム油産業における持続可能性の改革は、金融機関にとってESG関連のビジネスチャンスとなり得ますが、変化する規制に迅速に対応できない場合や評価基準が一貫性を欠く場合は、コンプライアンスやブランドイメージの低下を招き、信頼を失うリスクもあるのです。 

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