ESGと法規制 – 今、企業が直面するリスク

ハワード・A・フィッシャー

パートナー弁護士 / モーゼス&シンガー法律事務所

環境・社会・企業統治(ESG)への配慮は、企業の世界においてますます重要な指標となっています。

あらゆる事象に対する企業の対応がニュースやソーシャルメディアに散見されることが多くなり、顧客、取引先、投資家、従業員は、企業のESGの動向を注意深く追跡できるようになりました。

しかし、企業や顧問弁護士が注意を払うべきなのは、これらの対象だけではありません。近年、米国証券取引委員会は、ESGの懸念に対処するための取り組みを強化し、特に環境に関する要素を重要視しています。ごく最近まで、持続可能性の問題は、財務業績の中心的な要素とは見なされておらず、投資家、あるいは政府規制当局にとっても、さほど重要な問題とは考えられていませんでした。しかし、2020年の選挙後にSECが交代し、投資家の関心が高まったことで、米国の規制当局は方針を一変させました。バイデン政権の最初の数週間で、SECは執行部門に全国規模の気候・ESGタスクフォースを設置し、この問題を執行課題の優先事項とする意向を示しました。

また、企業の財務部に対して、ESG関連の追加人事を行うとともに、「上場企業提出書類における気候関連開示への注力を強化する」よう指示しました。さらに最近、SECは、気候関連開示の「強化・標準化」のための新たな規則の提案を検討することを発表しました。

この変化の背景には、気候変動リスクが投資家にとって重要であると同時に、企業にとっては体系的な財務リスクであるという2つの側面があります。持続可能性に関する株主提案の急増は前者を示しており、SEC委員や様々な部署による複数の声明は後者を強調しています。

元SECの検察官として、私はSECがESG関連の追加要件を課し、ESG執行基盤を強化するのを興味深く見ています。しかし、これは上場企業にとって現実的にどのような意味を持つのでしょうか。今年後半には、より詳細なESG規制が制定される可能性があり、おそらく大きな法的問題に直面することになるでしょう。その間に企業は、既存の開示体制に基づき、執行の優先順位を予測することができます。従って、想定される執行対象、執行強化がもたらす副次的な影響、また、それらの影響を最小化するための対策を検討することが賢明でしょう。

不正行為拡大の背景

第三幕で暴発する運命にあるチェーホフの銃のように、政府の執行機関は時に自己満足的な予測に陥りがちです。では、どのような問題が発生しやすいのでしょうか。

グリーンウォッシュ

企業が持続可能な理想に対する取り組みを強調したいという誘惑は、測定可能な実績と結びつかない場合、政府の調査を誘引することになりかねません。排出削減や持続可能な取り組みに関する曖昧な表現は、本質的に複数の解釈が可能であり、また、企業が投資家を誤解させ、実行可能な措置を講じていないと思わせる可能性があります。特に、サステナビリティレポートのような企業の環境に関する開示が、SECの開示と一致しない場合は、この傾向が顕著となるでしょう。

会計に関する課題

企業は、環境問題に関連する不適切な会計処理を行った場合、訴追される可能性があります。企業が気候変動による潜在的な経済的影響(有形または無形の資産の減損など)をどのように会計処理しているかに基づいて、強制執行が行われます。無形資産の場合は、資産の耐用年数の追加的な制限、取引先に対する潜在的なリスク、気候変動から生じる付加的な負債が含まれる可能性があります。

移行期の課題

企業は、気候変動に伴う様々な重要な変化に適応するために、どのような手順を踏んできたのでしょうか。洪水が発生する可能性のある地域にある工場をどうするか検討しましたか?更に極端な気象現象に対応することを検討したことがあるでしょうか?このような対策について、開示がある場合、どのような開示を行っているのでしょうか。これらの開示には、「ブラックスワン」事象を含む、予測される様々な状況に応じたシナリオプランニングが含まれるでしょう。

法律や規制状況への対応

急速に変化する連邦政府の法律や規制に加えて、各州には様々な法的義務が存在し、海外の管轄区域も同様です。企業は、これらの義務をどのように満たしているのでしょうか。また、その遵守状況をどのように開示しているのでしょうか。環境に関する義務について、関連するすべての法制度を遵守していない場合、開示の不履行として起訴される可能性があり、過去にそのような事態が起こったこともあります。このようなコンプライアンスの不備が重大であれば、政府による措置に続いてSECによる措置がとられる可能性が高いでしょう。

取引先とサプライチェーンのリスク

企業は、自社に対する責任に加え、取引先やサプライチェーンなどの関連業者の環境リスクを開示しなかった場合、訴追される可能性があります。サステナビリティの開示にサプライチェーンを含んでいますか?サプライチェーンが環境目標を遵守していることを確認するために、どのような取り組みを行っているでしょうか?

潜在的な法的リスクをどのように抑制するか

企業にとって潜在的な損害賠償リスクは相当なものになる可能性がありますが、それを軽減する方法は、以下のように数多くあります。

  • 説明責任を重視する – 誇大表現や 曖昧な願望を述べるだけでは十分とは言えません。企業は、潜在的な問題を早期に認識し、非公開の活動と公開された声明が一致していることを確認する必要があります。また、懸念事項があれば、効果的な内部通報手段を確立し、企業レベルだけでなく、個人レベルでも説明責任を果たす文化を醸成しなければなりません。
  • 社内教育 – 社内のすべての利害関係者は、環境重視の新しい時代に突入したこと、そして、持続可能性の問題は、長期的な生存に不可欠であるだけでなく、規制当局の矢面に立たされないためにも必要であることを理解する必要があります。
  • 部門を超えて取り組む – ESG関連のリスクを最小化することは、一部門だけの責任ではありません。法務担当者の戦略的計画は、コンプライアンス担当者だけでなく、サステナビリティ、レポーティング、IRなどの部門の担当者を含む必要があります。このような取り組みには、ESG関連の課題が会社にとっていかに重要であるかを全員が理解できるよう、十分な権限を持った管理職が関与する必要があります。
  • 会計 – SECは、この分野での取締りの手段として会計問題を重視する可能性が高いため、会計処理と環境問題との関連性をより強く認識する必要があります。

環境問題を理由に証券取引法違反として起訴されるような、新しい時代の規制当局による取締りが予想されます。来年以降、多くの事件が発生することが想定され、情報に敏感な企業は、潜在的なリスクを抑えるための準備をすでに始めていることでしょう。言うまでもなく、すべての企業が対策を講じるべきべきでしょう。


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