法務部門に戦略的計画のロードマップが不可欠な理由 

 

法律顧問(GC)の役割が、企業内において一弁護士から信頼のおけるビジネスアドバイザーへと発展したように、近年、法務部門の役割にも変化が見られます。 

今回は、クライアントスマート社の CEO である ローズ・D・オース(以下R.O敬称略)氏が、GSKコンシューマーヘルスケア社 シニアバイスプレジデント兼ゼネラルカウンセル(GC)で、『Building an Outstanding Legal Team』(卓越したリーガルチームの構築)の著者であるビャーネ・テルマン氏(以下B.T敬称略)に、法務部門が戦略計画を策定すべき理由と、そのプロセスにおいて重要なステップについてお話を伺いました。 

法務部門が戦略を持つ意味

R.O : 法律部門が戦略を持つことが、なぜ重要なのでしょうか。 

B.T: 戦略を持つことの大きな目的は、法務部門が企業に対してどのような価値を提供するかを明確にすることです。この計画を策定するプロセスにおいては、企業の戦略的目標と法務部門の目標が同じ方向性を持つように、丁寧にデータを検証し、それを重視することが重要です。 

そして、策定された戦略計画は、法務チームが目標を理解し、達成するためにはどのようなリソースが必要なのか、また、目標に対する成果を評価するための指標を明らかにし、法務チームを正しい方向に導くロードマップとなるのです。法務チーム内において、個々の役割がどのように重要であるかを詳細に示すものでもあります。 

戦略の具現化

R.O :  法務戦略の立案と実行において、「成功」を決定づける要因は何でしょうか。 

B.T :  企業の事業戦略との協同性です。協同するためには、まず第一に、企業の戦略を理解することです。多くの大企業は、マクロレベルから始まり、10年以上にわたってビジネスに影響を与える可能性のある重要な動向やトレンドを特定するなど、段階的な戦略決定プロセスを持っています。次に、これらのトレンドが3年後、また、1年後など中期、短期でどのような影響を及ぼすかを予測します。つまり、ビジネスと連携するためには、法務部門のリーダーは、自社の戦略の策定方法と、各段階での成功の定義について深く理解していなければならないのです。 

また、法務部門を率いるリーダーは、部門がサポートする各部署、及びプロジェクトの成功指標を理解する必要があります。私が経験した戦略的計画プロセスの成功例のひとつに、私のリーダーシップチームが社内他部門の担当者と2日間にわたるヒアリングを行ったことがあります。毎日、法務部門のメンバーは、営業、調達、人事、その他いくつかのグループの担当者と会い、彼らの優先事項や目標、そして法務部門に求めること、またその方法について話し合いました。そして、私たちが何を必要としているのか、相手から学ぶことができました。これは画期的かつ非常に効果的な調整作業でした。 

GSKコンシューマーヘルスケア社 GC ビャーネ・テルマン氏

法務部門リーダーの役割

R.O: 現在、法務部門内に法務オペレーション・チームを置くところが増えています。戦略的の計画のプロセスにおいて、法務部門の責任者はどのような役割を果たすべきでしょうか。 

B.T :  それは、その役割を担う人の経験や能力によって異なります。当社の法務オペレーションチームの責任者は、私のリーダーシップ・チームの一員であり、戦略部門の責任者でもあるので、プロセス全体において重要な役割を担っています。戦略を練るための会議をする前に、収集し、整理する必要がある情報やインプットは非常に多くあります。彼は、すべての基礎的な作業が順調に、かつスケジュール通りに行われるよう、日々努力し、法務部門を先導しています。 

戦略立案会議のプロセス

R.O: 戦略立案会議には、誰が同席する必要があるのでしょうか。 

B.T: 最初の会議には、法務担当者、法務部門のリーダーシップチーム、そして主要な社内担当者は全員出席すべきです。GCの主な役割は、セッションの雰囲気を作り、部門のビジョンと目的を明確にし、部門の将来の方向性と焦点について十分な情報を得た上で意思決定できるよう、グループに質問を投げかけるなど、議長役を務めることです。最初の会議では、リーダーシップチームのメンバーは、他部署の担当者や法務をサポートする他のビジネス部門からのフィードバックを共有します。当然のことですが、主要な社内担当者の参加は、目的と期待の整合性を確保するために不可欠です。 

戦略計画会議が何度か繰り返された後、戦略チームは外部のパートナー、特に外部の弁護士や代替法務サービス・プロバイダーと面会します。そして、これら委託先が協同することの重要性を部門内外に強調しておく必要があります。外部パートナーとして、私たちのビジョン、優先順位、成功の評価方法について、明確なイメージを持ってもらうことが大切です。同時に、彼らが私たちに何を求めているのかを知る必要もあります。 

不確実なリスクに備える

R.O: シナリオプランニングは、戦略プロセスの一部なのでしょうか、それとも別の作業なのでしょうか? 

B.T: 戦略立案とシナリオ・プランニングは別々の作業ですが、同時に行うことも可能です。シナリオ・プランニングの目的は、起こり得る不確実なリスクを特定し、軽減することです。戦略プランニングは、これまで議論してきたように、より広い目的を持っています。どちらのプロセスも、ドナルド・ラムズフェルドが言うところの “known unknowns” と “unknown unknowns” (”既知の未知”と “未知の未知”)という、「不確実な」未来のリスクを検討します。 

R.O: 「既知の未知」と「未知の未知」に対して、どのような対策を取るのですか? 

B.T :  計画は非常に重要ですが、未知(想定外)のショックに耐えるために必要なのは、高い適応性と回復力、そして迅速性を備えた企業の経営体制です。理想的な世界では、『The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable』(「ブラック・スワン:不確実性とリスクの本質」)の著者であるナシーム・ニコラス・タレブ氏が言うように、「アンチフラジャイル(強固な、揺るがない)」企業モデルを構築することでしょう。このような組織モデルは、緊張やプレッシャーに反応して強くなる筋肉のように機能します。しかし、この状態を実現するのは難しいため、レジリエンス(回復力)が最初のステップとなります。パンデミックは、回復力の高い企業がどのように適応してきたかを示す完璧な例であり、 中には、適応するだけでなく、逆境のなかで実績を伸ばした例もあるという点で、アンチフラジリティの(強固な)要素を示している企業もあります。 

戦略の進捗を測る指標の活用

R.O: 戦略が計画どおりに実行されていることを、どのようにして確認するのですか? 

B.T:  計画には、主要業績評価指標 (KPI) や、リーダーシップチームが戦略目標達成の進捗状況を測定できるような指標を組み込んでおく必要があります。また、定期的にミーティングを行い、測定基準が目標から外れていることを示している場合に、どのような変更を加えなければならないかを決定する必要があります。 

投資とコストと戦略プロセスに組み込む

R.O: 年次予算プロセスは、戦略プロセスとどのように連携させるのでしょうか。 

B.T: 予算編成のプロセスは、戦略立案プロセスと連動させるべきです。予算編成では、コストと投資を区別することが重要です。後者は、時間とともにリターンが得られるもので、多くの場合、戦略の優先順位と密接に結びついています。例えば、プロセスの最適化やテクノロジー・プロジェクトの実施は、時間の経過とともにROI(投資収益率)が得られる投資であり、人員はコストとなります。 

法務戦略が文化と目的に与える影響

R.O: 法務戦略を持つことは、法務部門の文化にどのような影響を与えるのでしょうか。 

B.T :  これらは互いに影響を与え合うものです。明確な目的と戦略に支えられた部門は、会社へのコミットメント、ビジネスへの深い理解、学習、実験、変化、適応への意欲など、プラスの文化的特性を備えています。明確な戦略がなければ、緊急事態に混乱し、後手後手対応の組織になる危険性があるのです。 

R.O: 目的と戦略の間には、どのような相関関係があるのでしょうか。 

B.T:  戦略は目的から生まれます。法務部門の目的は、「私たちは何のために存在するのか?」「私たちはどのようなユニークな能力とスキルを持っているのか」「私たちはどのような付加価値を提供できるのか」という基本的な問いの答えです。そして、その目的を達成するための戦略がロードマップなのです。 


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