マスターカード、コーポレートサステナビリティ担当執行副社長「中小企業は有意義なESGプログラムを開始すべき」

ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点を取り入る法律事務所や企業法務部門が増えてきましたが、法律事務所や企業法務部門によるESGの取り組みが、投資家、消費者、株主にとってより一層重要になっています。昨今、法律事務所やその顧客企業は、サステナビリティ向上と社会的影響に関する情報発信を目的として、ESGの問題に全面的に対処するための長期的な成長戦略を整備しています。ESGの観点と関連するデータ指標が、これまで以上に重要性を帯び始めており、特に投資家、消費者、株主にとっては、法律事務所や企業の長期的成長のビジョンとその革新性を知る上での重要な情報となります。

ESGが株主との対話における主題となったのは、ブラックロック社CEOのラリー・フィンク(Larry Fink)氏が2018年に、「時の経過とともに繁栄するには、すべての企業が財務実績を発表するだけではなく、自社の社会的貢献を示さなければならない」と述べたことに始まります。さらに5月には、ブラックストーングループが初めて、プライベートエクイティ部門が管理する企業の経営陣に対してESGの問題を定期的に自社の取締役会に報告することを求めました。

また、若い世代の従業員や消費者はESGトピックに関する社会的思想に影響を与えています。またX世代(1960年代中盤から1970年代終盤に生まれた世代)も企業にさらなる透明性を求め、道徳哲学を考慮し、世界をより環境に優しく、多様性を認めた、公平な場にするために積極的な変化をもたらしています。

ESGの先進企業になる

マスターカードのコーポレートサステナビリティ担当部長であり、マスターカードの慈善事業の拠点であるインクルーシブ・グロース・センター(Center for Inclusive Growth)の創設者兼社長のシャミナ・シン(Shamina Singh)氏は、長年にわたりESGに重点的に取り組んできました。「私たちは皆、サステナビリティビジネスに取り組むべきです。企業が自社の成長戦略をどのように考えているのか、そしてその企業がビジネスで関わるコミュニティをどのように支援するのかといった点において、ESGが中核に位置付けられる必要があるのです。マスターカードでは、多様性を受け入れ、イノベーションを起こし、私たちが行うことすべてのコアとなる信頼を得るために取り組んできました」とシン氏は述べます。

ESGコミットメントを検討し始めた企業、とくに中小企業に対して、シン氏は下記のような対策を推奨しています。

自社の強みに対して投資する

自社の最も長けている点を見出し、それを活用して、ビジネス的に持続できるやり方で、自社のESG目標を推進しましょう。マスターカードは10年以上にわたりファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)をリードしています。5億人規模のデジタルエコノミーを実現するとしたマイルストーンの達成を受け、昨年は2025年までにデジタルエコノミーを10億人および小規模事業者5,000万社にまで拡大するという目標を掲げました。誰もが自分の潜在能力を発揮できれば、私たちのビジネスは繁栄します。

自社のネットワークを動員する

ビジネスパートナーや顧客と協力し、大規模かつ長期的な影響に対して協働しましょう。例えば、マスターカードとそのビジネスパートナーは、同社の約30億人のカード保有者の気候変動に対する活動を支援しています。持続可能な原料から作成されたカードの保有を可能にしたり、カードの支払い決済を通して森林再生に寄付するデジタルツールの提供するといったことがあります。

ESGに対して総合的にアプローチする

企業はESGを3つの個別の要素と考えるのではなく、自社の業務に3点すべてを組み込みましょう。マスターカードでは今年、健全なコミュニティ、健全な地球、経済の繁栄のすべてが連動することを目指したグリーンプロジェクト(環境問題の解決に貢献する活動)とソーシャルプロジェクト(社会的課題の解決を目的とする活動)の両方を組み込んだ6億ドルのサステナビリティボンドを発行しました。マスターカードの経営陣は、唯一の持続可能な成長はESGの3つの要素すべてと結びつくインクルーシブグロース(包括的な成長)であると考え、このサステナビリティボンドの発行を実施しました。

社内外での指導を求める

最初にやるべきことの一つは、会社が最重要なメッセージとして何を伝えていくべきかを、クライアントや消費者に尋ねることです。早い段階で自社の弁護士に参画してもらい、規制上の観点からの助言を得て、自社には何ができ、何ができないかを把握するということに留意しておかなければなりません。

積極的に自社の資産を活用する

マスターカードは、サステナビリティの目標の達成に向けた取り組みをより推進するため、大半の上級幹部(執行副社長以上)の報酬を、マスターカードのESGイニシアチブと、グローバルESGの3つの優先事項であるカーボンニュートラル、ファイナンシャルインクルージョン、男女の賃金平等に連動させる制度を導入しました。危機感を抱いて対応したのではなく、ESG目標への積極的取り組みを後押しするために実施されました。

将来を見据えて

ESGは、企業の規模に関わらず、一朝一夕で解決できる課題ではありません。事実、今日の企業が抱える課題の多くは、ESGのような非財務的課題であり、それら課題がすべてではないにせよ、その傾向は加速し続けています。今後もESGは重要性を増し、取締役会等の高度な意思決定機関による対応が求められるでしょう。

「企業価値の80%から90%を非財務的価値が形成するかもしれません。例えば、多様性の拒絶がもたらす潜在的な責任とリスクは、バランスシートには表示されません。したがって、ESGトピックを含むあらゆる形の多様性に対処できない場合、企業価値に大きな損害を与える可能性があります」と、CPA(公認会計士)であり、会計事務所Sensiba San Filippoの業務執行社員のジョン・センシバ(John Sensiba)氏は言います。

事実、センシバ氏によれば、クライアント側の要望が、法律事務所によるESG推進の主な原動力となっており、正式にESGプラクティスグループを発足した法律事務所の数が増加しています。

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