新たなブログシリーズ「In Practice」では、企業法務部門が2020年に得た教訓を、その後のリーガルオペレーションにどのように適用しているかにフォーカス
ドニー・チン(Donny Ching)氏は、45カ国で総勢1,000人の専門家を抱えるシェルのグローバル法務部門における明確なビジョンを持つリーダーです。かつては、受動的で、労働集約型、そして、単に法的助言のみを行う弁護士中心の形態だったシェルの法務部門は、チン氏の下、積極的で、データ駆動型、技術主導の、多くの専門分野にわたる人材を抱える形態へと移行し、数々の貴重なビジネスソリューションを提供しています。
チン氏と彼の能力によって推進されるこの変革により、彼が率いるリーガルオペレーションチームは、法務部門にもたらす価値、ひいては会社全体にもたらす価値を最大化しています。最新のIn Practiceのインタビューでは、自身が採用したアプローチ、そして、リーガルオペレーションの役割拡大の利点を示す事例についてチン氏にお話をうかがいました。
ローズ・オース:リーガルオペレーションチームを立ち上げる際には何を目標とされていたのでしょうか。また、それはどのように組織化されているのでしょうか。
ドニー・チン:当社がリーガルオペレーション部門を立ち上げたのは2018年で、コスト削減、効率性の向上、サービスの統合を目的としていました。現在、私たちのチームは、プロジェクトマネージャー、プライシングの専門家、データアナリスト、技術者、デジタルデザインの専門家で構成され、マレーシアとポーランドにあるシェルの海外サービスセンターの2拠点で活動しています。また、現在、標準化されたリスクの低い業務を主に行う若手弁護士とパラリーガルで構成されるリーガルアドバイザリーチームも、これらのサービスセンターで活動しています。当社のリーガルオペレーション責任者であるバリー・ティンダル(Barry Tyndall)がこのチームを率い、私に報告をしています。彼は法務における幹部メンバーのひとりでもあります。
ローズ・オース:このような多様なスキルと考え方を持つチームを配置すると、イノベーションの推進に大きな影響があると考えられますが、いかがでしょうか。
ドニー・チン:私たちが目指しているのは、大胆で創造的な思考が促進され育まれる文化を創り出すことです。イノベーションの文化を発展させるひとつの方法は、多様な経験とスキルを備える人材同士が協力し、どの業務を、どのような手段で遂行させるべきかを見直すことです。私は、自身のチームに「既存の枠にとらわれない」考え方を求めています。私の経験では、そのためには弁護士以外も囲い込む「枠」が必要となります。革新と改善を継続するため、必要となる新たなスキルや規律を私は常に見定めています。
ローズ・オース:「既存の枠にとらわれない」というのは、具体的にはどのようなことでしょうか。
ドニー・チン:私たちが取り入れた、ひときわ興味深い試みのひとつとして「見る契約書」というものがあります。言葉だけでは技術概念やその他の複雑な概念を理解しづらい契約書において、視覚的な要素(略図、グラフ、画像)を組み込む方法を模索しています。視覚要素を加えることにより、より簡潔で、より明確な契約書の作成が可能になるのです。
この試みの結果から、当社の全ての契約書において、契約を履行する当事者たちにとって理解しやすくする方法が検討されるようになりました。契約書の多くは法律用語で書かれており、契約書のほとんどが、記載されている長文のwhat-if条項(仮説条項)の理解に苦労します。当事者たちはただ、弁護士に対する信頼から署名しているといってもよいでしょう。私たちは、契約を結ぶという本来の目的、すなわち、「意見の一致」に立ち返りたいと考えています。
ローズ・オース:なぜ、リーガルアドバイザリーチームがリーガルオペレーション部門にいるのでしょうか。
ドニー・チン:リーガルオペレーション部門内にアドバイザリーチームを配置することで、弁護士が自国内における特定の管轄区域にいる必要のない業務をサービスセンターに集約することができます。このような業務の統合は、事案への「適切な人材配置」や、より効率的な業務遂行を促します。私たちはまずサービスセンターに弁護士を配置することから始め、特定の標準化されたリスクの低い業務を引き受けてもらい、現在では、より複雑な業務を処理するための能力と知識を高めてもらっています。
ローズ・オース:サービスセンターへと移行した業務にはどのようなものがあるのでしょうか。
ドニー・チン:私たちは以前、何百人もの弁護士を抱え、その中にはかなり上級の弁護士もおり、年間何千件もの秘密保持契約書(NDA)を起草していました。ですが現在では、取り扱いが容易な技術ツールを利用し、NDAの多くをサービスセンターで迅速に作成しています。複雑性や特有性の高いNDAについては、この技術ツールによってNDAがクライアントからリーガルアドバイザリーチームへと送信され、チーム内でNDAが起草される、あるいは、必要な専門分野の知識を持つ弁護士にNDAが送信される、のいずれかの対処が行われます。
ローズ・オース:そのようにNDA作成業務を統合することは、自動化にも役立つのですね。
ドニー・チン:そのとおりです。私たちが望むデジタルトランスフォーメーションを実現するには、できるだけ多くの業務を標準化する必要があります。業務を一元化することで、標準化が容易になります。それに、プロセスのスリム化や効率化にも役立ちます。非効率なものをデジタル化したくはないですからね。
ローズ・オース:データの使用において、リーガルオペレーションではどのような変化があったのでしょうか。
ドニー・チン:データの使用効率が向上し、成果の測定に使用する指標も強化されました。当社の全ての特許、合計で何千件にも及ぶのですが、それについてのデータは、これまで膨大なスプレッドシートに保存されていました。その見直しには数日がかかり、情報の抽出には非常に多くの時間を要していました。現在では、当社の特許は、高度な検索機能を備えた、使いやすく視覚的なダッシュボードからアクセスすることができます。さらに、ダッシュボードはデータへの素早いアクセスが可能なだけでなく、データの問い合わせの実行も可能です。例えば、現在このツールでは、重要度と価値の観点からさまざまな特許に順位を付けることができ、全ての特許がその契約内容とリンクしているため、ライセンス収入や失効日など、それぞれのライセンス契約を確認することができます。
法律事務所の実績を測定するために私たちが使用する指標の中には、いわゆる「適切な手数料の取り決め」のもとで実現する価値があります。私たちは、予想されるコスト削減の達成度合いを評価し、研修や出向、無料ホットラインという形で得た付加価値を確認します。
ローズ・オース:見る契約書、NDAのセルフサービス化、特許データ検索の効率化はすべて、どのような業務をどのような手段で行うべきかという意図的な評価を表しているかと思います。次はどのようなことを実施する予定でしょうか。
ドニー・チン:次は、単一部門のプラットフォーム、24時間年中無休で稼働するデジタルフロントドア「LegalConnect」の立ち上げを予定しています。このプラットフォームでは、特注案件業務や戦略的業務以外の全ての業務に対するログイン、割り当て、管理が可能です。このような中央情報センター(クリアリングハウス)を設置することにより、私たちは、より戦略的かつ積極的に業務を遂行することができます。また、業務の量と種類を定量化し、どの企業、どの国において最も業務が増えているかを把握することも可能です。そういったこと全てを把握することは、潜在的エクスポージャー(リスク)をより迅速に特定し、それらを管理する方法を開発するのに役立つことでしょう。
このような広範なデータは、法務部門の管理にも役立ちます。企業や国に対してより適切にリソースを割り当て、私たちが弁護士に求める経験値をより適切に評価することができるのです。