法曹界おける性別による賃金格差是正の主張がもたらす影響

残念なことに法曹界では依然として賃金格差に関する課題がありますが、この課題に対して企業が取り組めることがあります。

性別による賃金格差の現状

94人の黒人社内弁護士を対象とした最近の調査によると、非管理職の女性顧問弁護士の給与は、同じ職務の男性の平均給与より14%低いことがわかりました。また、この調査では、退職の危機を利用して給与の増額を交渉できる者もいるなど、かなりの給与格差が明らかになり、その実態は極めて深刻なものでした。

しかし、給与格差の問題は、今に始まったことではありません。米国では、通年で働く女性の給与は、非ヒスパニック系白人男性に支払われる1ドルに対して83セントとなっています。新型コロナウィルス感染症の世界的流行は、働く女性にとってさらなる障壁を作り出しました。

女性従業員の職務以外の活動傾向

職務、部門、業務分野にかかわらず、法務業界の男女賃金格差は、依然として女性、特に有色人種の女性に深く影響を及ぼしています。マッキンゼー社とLeanin.org(リーン・イン)による「職場における女性2021年報告書」によると、女性は職場で新たなタイプの「燃え尽き症候群」に直面しているそうです。管理職に就く女性は増えていますが、男性に比べて余分な仕事、つまり対価を得られない仕事を引き受けることが多いようです。さらに、一般的に女性はチームをサポートし、多様性イニシアティブを推進し、公平性のための全社的なイニシアティブをリードし、LGBTQコミュニティの同僚の味方になる可能性が高いという調査結果が出ています。

法律関係の仕事では、女性は法律事務所でプロボノ活動を主導することが多く、有色人種の女性が職場で直面する課題について教育し、差別に対して発言し、有色人種の女性のメンターや支援者になる傾向が男性よりも高いという結果も明らかになっています。

立法措置による変化の兆し

法律事務所タックナー・シップサー・ワインストック&シップサーの共同設立者であるジャック・タックナー氏は、賃金格差の課題においては特にニューヨーク州やカリフォルニア州で多くの進展があったとはいえ、実際に米国企業が男女間の賃金格差の是正し、同一労働同一賃金を実現するには「前途多難」だと述べています。同事務所は女性の職場の権利を保障する事務所として知られており、1998年以来、賃金平等の請求に関する訴訟を数多く手がけきました。

ニューヨーク州では、原告の女性労働者が「実質的に同様の仕事」をする男性よりも賃金が低く、他の救済措置が尽くされたことを示すことで、性差別による不平等賃金請求訴訟に勝訴する可能性が高いと言います。同様に、ニューヨーク州では、セクシャルハラスメントの強制仲裁の禁止、妊婦を保護のための「職場における妊婦公正法」を制定、全米で最も強力で包括的な家庭有給休暇政策である家庭有給休暇法を制定しています。

タックナー氏は、最近、全く同じ内容の業務に従事し、キャリアもほとんど同じにもかかわらず、男性の弁護士より年収が4万ドルも低い女性弁護士を弁護したことから、「働く女性に力を与えるために作られたこれらの新たな法律が長期的な効果を発揮するには、さらに数年かかるだろう」と述べています。

当事者の存在が最大の影響力を持つ

タックナー氏は、給与格差の実態把握と是正において、企業内の複数の関係者が変化をもたらし、説明責任を果たす必要性を強調しています。まず、最も影響力があるのは雇用を統括する人事部門です。人事部門の責任者は、市場の給与水準と自社の定着率について定期的に検証する必要があります。そして、これらのプロセスの一部について、法務部門と提携することも賢明でしょう。

ジャック・タックナー氏(弁護士)

人事部門と法務部門の役割

人事部門の責任者が念頭に置いておくべきこととして、特定の州では、法務部門との連携などによる内部監査を行い、賃金に不公平がある場合には、状況を改善するための対処を実施することで、将来的に訴訟から会社を守ることにつながるということがあります。

採用担当者は、採用を決定する重要な第一段階を担っています。そのため、候補者を評価する際に「客観的な基準」を用いて、会社が資格とスキルに基づいて人材を採用していることを確認すべきだと、タックナー氏は説明しています。実際、このような標準的な指標を使うことで、採用担当者の個人的な候補者へ好感度、あるいは文化的に適しているかといった主観的な基準を避けることができるのです。このような主観的なバイアスを過度に利用すると、女性や社会的地位の低い人材を登用する文化がない職場になってしまう可能性があります。

候補者と面接する際には、採用担当者は候補者の給与の履歴(現在21の州では認められていない)、家族、子供、その他の個人的な事柄について尋ねるべきではありません。このような質問事項は、暗黙の偏見を生み出す傾向があるからです。2022年5月15日より、ニューヨーク市の雇用主は、求人、昇進、転勤の広告に給与範囲を記載することが義務づけられました。

採用候補者が留意すべきこと

同時に、採用候補者も給与格差の解決に向けて、以下のような役割を担っています。

  • 給与、昇給、昇進の交渉の際には、従業員として自分が何を望んでいるかを明確にし、率直な意見を述べるようにしましょう。自分の最大の支持者は自分自身であり、どのような給与水準を望んでいるのかについて、透明性を保つこと。
  • 転職を考えている、あるいは社員として新しい役割を担おうとしているのなら、その会社の経営陣にさまざまな性別や人種がいることを確認することです。それが、すべての職務における多様性をどれだけ重視しているかに直結するのです。

先進的な州の取り組み

訴訟関係者によれば、雇用主にとっての法の抜け穴、女性従業員にとっての不十分な救済措置、そして多くの不利な連邦裁判所の判決によって、賃金平等に関する法制度はかなり効力を失ってしまいました。その結果、公平な賃金制度は、議会が当初意図したよりもはるかに効果が低くなっています。2016年、一部の州はこれらの問題に取り組み始め、カリフォルニア州とニューヨーク州は基準を変更し、雇用者に賃金差の正当性を要求することで賃金格差の是正の動きを始動しています。

ルース・バーダー・ギンズバーグ元最高裁判事の有名な言葉があります。”真の変革、永続的な変革は、一歩ずつ起こる” だからこそ、男女を問わずすべての人が、職場における賃金と男女の平等を求めるこの取り組みに参加することが重要なのです。


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