FTA

帰属する産業でFTA検認時代にいかに備えるか 

FTA(EPA)の裏にある考え方と企業メリット 

株式会社ロジスティック
代表取締役社長 嶋正和氏

 FTA(Free Trade Agreement: 自由貿易協定)とは、協定を結ぶ国(地域)の間で、貿易をより円滑に行う事を主眼にして締結した協定です。日本ではEPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)と呼ばれます。FTAとEPAは同じものであると考えて差し障りありません。

世界ではFTAと呼ばれることが普通です、TPP(CPTTP)やRCEPのようなFTAがカバーをする項目は多くあります。FTAの目的が締約国間の経済の仮想的統合なので、例えば、相手国への投資規制の撤廃やそれに伴う投資ルールの整備、サービス業における相手国での外資規制の撤廃などを行う事でそれを達成するわけです。

そして、FTAがもたらす一番の効果はやはり輸入相手国での関税削減となります。一部の商品だけの関税を削減することではFTAと呼べず、大多数の品目の関税削減を行って初めてFTAを名乗れます。理想的には関税を全て削減して協定を結んだ締約国間ではあたかも経済が一つになったかのように自由に行き来することを目指したものだからなのです。 

 関税のそもそもの目的は、国の歳入源としてや、関税を徴収することで輸入品によって国内の生産者を守ることです。しかし国を他国の商品から守ることは両刃の剣で、その国の国民にとって高くて質の必ずしもよくない商品を使わざるを得ない環境は決して経済活性の観点からみると良くありません。それ故、最近各国は関税によって国を保護するよりは、関税や貿易を円滑にするように手続を簡素化することで、国内外企業の競争により価格低下と品質向上をもたらすことで国民の生活向上と経済活性化を志向しています。結果、国は経済活性化により税収増を狙うことになります。 

 どれくらいのメリットがあるかの例をご紹介しましょう。日本とタイの間で2007年にEPAが締結されました。この日タイEPA(JTEPAと呼ばれます)では、タイが通常課している一般の関税(MFN税率:WTO加盟国が、同加盟国に対して課している関税。)が化粧品のアイシャドウには30%課せられています。日本から1万円のアイシャドウをタイに輸入した場合、タイの税関で3,000円もの関税がかかります(関税をかけるベース価額がCIFとなりますので、状況により金額は多少変わります)。この関税にも付加価値税がかかりますので、タイ国内での販売価格は決して安いものにはならないことは容易にお分かり頂けると思います。

 FTAを活用すると、その関税率は0%になります。つまり、関税分3,000円がなくなるわけです。関税にも付加価値税がかかっていましたから、更に付加価値税分も削減され、日本から輸入したアイシャドウはタイ市場で価格競争力を得る事ができます。企業は生産コストや物流費を削減するのに最大限の努力を日常払っているのですが、これだけのコスト削減効果は他にはないと言っていいでしょう。海外販売戦略で今となっては無視できない項目になっているのです。 

FTAにおけるプレーヤーとその役割 

 上記のことを聞けば、経営者は「なぜ使わない?すぐに対応せよ。」と言うでしょうが、少し、お待ちください。FTAでの関税削減を享受するためには条件があります。輸出して関税減免を受ける産品は、FTAの締約国内で生産された「原産品」でなければなりません。「原産品」であるためには、FTAで決められている「原産地規則」を満たし、それを証明する「原産地証明書」とともに通関手続を行う事が必要となります。 

 「原産地規則」には大別して3つの規則があります。 

  1. 締約国内で生産されていること 
  1. 1の条件下で、協定に定められた原産地基準を満たしていること 
  1. 輸出して、相手国に到着する間に加工がなされていないこと 

これらのことを満たしていて初めて、FTAでの原産品として認められ、関税の減免を受けることができます。 輸出者がまず上記の3つに従って原産地証明を行い、原産地証明書(特定原産地証明書と言い、通常の商工会議所から得られる非特恵の原産地証明書とは違います)を取得(協定により取得プロセスは違います)、インボイスに原産地証明書を添付して輸出します。

輸出者の苦悩は自分たちには関税削減のメリットがないだけではなく、証明に対する立証義務があることです。義務だけでメリットがないことは企業がFTA活用に促すことができず、企業が本腰になってきませんでした。また、後に話す検認も件数が多くはなかったため、コンプライアンス問題がほぼ発生せず、適当な対応となっていました。

FTA利用で直接的な不利益を被るのは輸入税関であり、輸入国になります。本来得られる関税がFTAにより得られないわけです。国はFTAによる経済活性化を目論んでのことですので、致し方ないのですが、税関は「原産地証明書」を「信じて」関税を減免することになります。ただ、輸入国は関税の減免をするものの、輸入時期から期間限定ではありますがその原産性の妥当性を検証する権利を所持しており、その原産性の妥当性を検証することを「検認」と呼びます。この、輸出者、輸入者、輸入国の3者の役割の違いがこの後話をする「検認」では大きな役割を持ちます。 

関税削減と検認  

上記に示しましたように、輸入時には原産地証明書によりFTAの関税減免を行うことがほぼ常です。ただ、輸入国としても相手国での原産地証明書をそのまま信じている訳ではなく、輸入から3~5年の間にその原産地証明書の妥当性、つまりは証明書の証拠となる資料を確認する「検認」する権利を行使できます。各国とも間違った原産地証明書で貴重な歳入源である関税をみすみす捨てることはしません。タイは昔、関税の歳入が国の歳入の30%であったこともありますし、日本は、工業品を中心に関税を無税化していますが、それでも農水産品を中心に関税は存在しており、その歳入は1兆円あります。国にとっては未だ捨てがたい歳入源なのです。 

検認のリクエストのプロセスは協定によって違います。日本商工会議所が「原産地証明書」を発給する場合、日本商工会議所から企業に対して検認の要請が入った旨が通知されます。EUやオーストラリアの自己証明の場合、税関から通知が来ます。TPPの場合、これも自己証明ですが、原産地証明書にメールアドレスなど連絡先を記載しているため、検認通知は対象税関から直接来ます。今後の対応方法にも影響がありますので、協定によって検認ルートは違うことは理解しておいてください。 また、検認が正規ルートで来ない場合もあります。その場合は慌てず、日本商工会議所や日本の税関など本来の該当組織と相談することをおすすめします。 

検認の意味 

検認は、原産地証明書の正しさを確認することにあります。ただ、検認が来た場合、相手の国や担当官は基本的に「関税を取り戻す」ために動いていることを忘れないでください。例えば、タイの担当者は、検認により取り戻せた関税により報償を貰うことができるため、意気込みが違いますし、また、インドの担当者は関税が取り戻せた如何に関わらず、検認を行ったことが評価されると聞きます。つまりは、「間違いのあら探し」にきて「関税を取り戻す」ことが彼らのミッションなのです。それ故に、企業の検認対応は、如何にしてこれらを上手にいなすかです。 

検認に対応するとは、その検認という疑義がかかったことに対して的確に「当社の原産性の証明は正しい」ということを主張することにあります。ですので、正しい証明が出来ていれば何も恐れることはないのですが、先の輸出者の責任と輸入者がメリットを享受することを考えると、輸出者がどうしても熱心に証明していることは多くありません。検認に耐えうる証明ができている企業は必ずしも多くはないのが現状です。検認における原産性否認は一種のコンプライアンス・リスクです。その領域を放置していたのは日本企業の落ち度と言えるでしょう。

検認で原産性が否認された場合、何が起こるのか。原産性がなかったわけですから関税の減免金額は当然何も悪くない輸入者が支払うことになりますし、遅滞金や証明内容の意図性などからペナルティもかかることが多くあります。それらを輸入者が支払うことになるのです。輸入者にとってはたまったものではありません。当然、その矛先は輸出者に向きます。支払った金額以上のものを輸入者が要求することは容易に想像がつきます。輸入者は何も悪くはないのですから。 

お金だけで輸入者との間が解決するかと言えば、そうではありません。当然輸出者は商売上の関係から輸入者との間がギクシャクするだけではなく、場合により、顧客を失うかもしれません。また、輸入税関は、誤りを行う企業と言うことから、通関が円滑にならず、また、追加の検認が入る恐れがあります。とある日本企業は原産性が否認されてから立て続けに4回検認を受けています。 

検認のやっかいなところは、日本企業の準備不足を明らかにすることです。検認はいつやってくるかわかりません。こちらの都合は考えてくれないのです。通常業務に加え、検認対応を行う必要があり、業務進行が麻痺しますし、原産地証明でサプライヤの手伝いを受けていてサプライヤが間違いを起こしていた場合、複雑な問題になります。日本企業は大抵、売買契約書にFTA対応に関して記載しておらず、話が泥沼化します。内製せず、外部に部材の生産を依存している日本企業は、証明上、この部分にもアキレス腱を残しています。 

検認の現状 (次回のテーマ) 

数年前まで検認はアジア圏を中心としたもので年間に100件程度でした。それが近年アジア圏だけで500件もの検認が記録されています。数がとても増えているのです。これに加えて、自己証明やTPPなどの件数も足し合わされるので、件数はかなりの数に上るのではないかと推察されます。 次回は増えてきた検認とそれに対する日本企業の苦悩に関してお話ししていく予定です。 


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