ESGの格差拡大:EUの規則がより厳格になり、米国からの提案は待ったなし

欧州の規制当局による環境・社会・ガバナンス(ESG)規則と米国の規則との間にギャップが拡大しています。

違いは、EU当局から発せられる新たな規制の量だけでなく、米国当局、特に証券取引委員会(以下SEC)の慎重かつ規範的でない姿勢からも生じています。

このような格差の拡大は、ある意味で当然のことでもあります。欧州の機関は、米国よりもESGの問題に迅速に取り組んでおり、多くの米国規制当局もこの事実を認めています。しかし、この相違は、両地域で事業を行う企業にとって、とりわけ米国の政治プロセスに潜む不確実性を考慮した場合、コンプライアンスに関する問題を提起していると専門家は述べています。

「2024年の次の米国大統領選挙までに新しい規制が本当に実施されるとは思えません」と、グローバルコンサルティング会社アリックスパートナーズのマネージングディレクター、ブルック・ホプキンス氏は述べています。ESG規制の問題で多くの企業を支援しているホプキンス氏は、企業の気候変動情報開示に関するSECの最近の提案を取り上げ、このルールが確定した場合、SECは米国企業に少なくとも12~18ヶ月の猶予期間を与えると思われ、この時期は「次の選挙に非常に近くなる」と指摘しています。

SECは3月、画期的な気候変動開示案を発表しました。これは、米国の上場企業が炭素排出量削減の公約を果たすために何をしているのか、透明性を高めようとするものです。SECの取り組みは、米国企業が気候変動にどのように対処しているかという情報をもっと知りたいという投資家の要望が主な理由です。(いわゆる持続可能な投資に注がれる投資家の資金は近年増え続けており、その総額は35兆ドル以上という試算もあります)。

SECの提案は、パブリックコメントの時間を確保するために延長され、6月中旬まで公開されています。しかし、SECの最終規則にはすでに法的な異議申し立てがなされる可能性があり、企業が将来の規制にどう備えるべきかはさらに不確実性を増しています。

しかし、専門家の中には、この難題をSECが切り抜けられると考える人もいます。ブルッキングス研究所のアディス・ラシテュ研究員は、「SECが、意図した目的に対してあまりにも多くの情報を要求したために、何らかの法的措置がとられる可能性はあるが、SECはそのようなリスクを最小限にするつもりで法律を起草しているようだ」と述べ、「それに、協議期間を設けることで、裁判所によって覆される可能性のある危険な部分を修正することができるだろう」と、その展望を推察しています。

EUはさらに先へ

一方、ここ数ヶ月、欧州では、ESG課題に対する企業の透明性を高めるための動きが止まりません。例えば、EUの統括機関である欧州理事会は、すべての大企業に環境・社会的影響に関する定期的な報告書の発行を新たに義務付ける「企業持続性報告指令(CSRD)」を採択しました。このEU法は、特定の大企業に対して、社会的・環境的課題の運営・管理方法に関する情報を開示するよう求めています。また、欧州中央銀行と欧州証券市場庁は、監督する金融機関に対して気候変動関連のストレステストを打ち出しています。

これに対し、米国の2大銀行規制当局である米国連邦準備制度理事会(FRB)と通貨監督庁(OCC)は、気候リスクに関する指針や新しい規制をまだ銀行に提示していません。OCCは、今年末までにガイダンスを提供する可能性が高いと言われています。ジョー・バイデン米大統領がFRB副議長(監督担当)に指名したマイケル・バー氏は、先日の上院の承認公聴会で、気候変動問題に関する中央銀行の権限は「重要だが、かなり限定的」であり、主に気候変動によって銀行が直面し得るリスクを評価することに重点を置いていると述べました。「連邦準備制度理事会は、金融機関に対して特定の分野に融資するように、あるいは融資しないように指示する事にに携わるべきでないと思う」とバー氏は述べました。

米国とEUのルールの比較

国レベルでは、さらに大きな格差があります。米国議会は、気候変動や排出削減に関する法案を一切可決していません。EUで、欧州議会が欧州気候法を採択し、EU諸国が気候変動に関するパリ協定を遵守することを法的に義務付けているのとは対照的です。

ブルッキングス研究所のラシテュ研究員は、「同様の法的拘束力のある国内法がないため、SECは新たな開示法をやや狭義に捉え、投資家への情報提供と保護を目的とした企業のリスクマネジメントの手段として位置づけている」と述べています。

アリックスパートナーズ社のホプキンス氏も同意見です。「この法律案で見られる大きな違いは、米国が原則的であるのに対し、EUはかなり専門的だという事です」

グリーンウォッシュの脅威

EUと米国の規制にはギャップがありますが、両国の規制当局は、自らを「良き企業ESG市民」と称しながらも、実際には規制を守らない企業に焦点を当て続けています。

SECは、既存の企業情報開示規則の下でも、ESGの信頼性に関して投資家を欺く、いわゆるグリーンウォッシュを行う企業を追及する権限を持っています。「SECは独自の分析チームを持っており、企業への圧力がかかることは間違いないと思います」とホプキンス氏は言います。「投資家コミュニティがどれだけ圧力をかけ続けるか、興味深いところです」


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