ESGとSEC:激動の時代を乗り越えるための法務責任者のあり方

規制当局が企業のESGへの取り組みを後押しすべく、企業のESG活動の開示に注目している中、法務責任者は企業方針を管理するために何をすればよいのでしょうか。

2021年、ゲーリー・ゲンスラー会長率いる米国証券取引委員会(SEC)は、ESG(環境・社会・企業統治)関連の開示に鋭い焦点を当てるなど、意欲的な規則制定と執行課題に着手しました。SECがサステナビリティに注力し始めた理由には、機関投資家が2017年頃から、企業に対してESG開示の改善を要求する機運が高まったことが背景にあります。

クライアントスマート社のローズ・オースCEOの、モーゼス&シンガー社の経営者で元SEC検察官のハワード・フィッシャー氏へのインタビューから、前例のない変化の年を乗り越えるための法務部門責任者の在り方を探ります。企業がSECに期待できること、ESG戦略の設定と推進において法務部門の責任者が果たすべき役割など、2022年の活動に欠かせない知見をご覧ください。

ローズ・オースCEO:SECは気候変動への影響や人的資本管理の情報開示の強化など、ESG関連事項に関する公開企業向けの新しい開示規則を発表する予定です。どのようなことが予想されますか?

ハワード・フィッシャー氏: SECは、気候変動に関する企業の持続可能性への取り組みに対して、より充実した情報開示を求めるでしょう。また、企業の気候変動への負荷、その負荷を軽減するために行っていること、その軽減努力の測定方法や計画についても開示を義務付ける可能性があります。また、ガバナンス、戦略、リスク管理など、気候変動に関連する事項の開示も求められる可能性があります。

人的資本面では、SECは企業の役員や従業員の多様性を高めることに注力しています。2021年にSECが承認したナスダックの取締役会多様性規則に相当するものを採用する可能性が高いでしょう。取締役会多様性規則-規則5605(f)-は、ナスダック上場企業に対し、取締役会に最低2名の多様な取締役を置くこと、または非適合理由を開示することを求めています。所定の書式による年次取締役会多様性データ報告書の提出も義務付けています。規則5605(f)への準拠を促進するため、SECは、企業が多様な候補者を特定するためにアクセスできる多様性採用ポータルの創設も承認しました。

従業員の多様性についても、企業は従業員規模や事業運営に用いる人的資本の目的を開示することが求められるようになりました。SECは、従業員の多様性に関する数値、企業が設定した多様性目標、そしてその目標達成の状況について定期的に報告することを企業に求めると思われます。SECは「人的資本」という言葉を定義していませんが、「登録者の事業を理解する上で重要な」人的資本の要素を開示するよう企業に求めています。

当然出てくる疑問は、何が “重要 “とみなされるのか、ということです。新規則で、企業の人材採用・確保の方法、経営陣の多様性、企業の人材開発・研修プログラムなど、多くの開示を義務付けが決定することでその疑問に対する答えが見えてくるでしょう。

オース氏: SECがより強固な情報開示を推進する原動力は何でしょうか。

フィッシャー氏 : SECは、投資家が十分な情報を得た上で投資判断をする際に、ESGの開示が重要であると考えているため、開示は詳細かつ正確である必要があるとしています。さらに、投資家が同じセクターの類似企業間でESGデータを比較するためには、データが評価を容易にする方法で表示される必要があります。

モーゼス&シンガー社 ハワード・フィッシャー氏

オース氏: 次にエンフォースメント側に話を移します。SECは、ESG関連の違反の可能性について、どの程度精力的に調査するとお考えでしょうか?

フィッシャー氏: SECが違反を特定し調査するためのタスクフォースを設置する時はいつでも、フルコート・プレスの執行が利用可能です。2021年3月、SECは執行部門に気候・ESGタスクフォースを創設し、まさにその意思を示しました。

オース氏:米国司法省(DOJ)による環境違反の刑事執行が増加することも期待できますか?

フィッシャー氏 : 司法省のトップクラスの弁護士は、まさにそのようなシナリオを公然と示唆しています。昨年10月、司法省のリサ・モナコ副長官は、「企業のコンプライアンス・プログラムの不設置」は「必然的にコストのかかる不作為」となることをはっきりと明言しました。同氏は、個人の説明責任が「企業刑事事件の最優先事項」であると説明し、さらに、企業の環境に関する不正行為の履歴も検察当局に考慮されるとしました。

そして12月、司法省環境天然資源部のトッド・キム部長は、司法省の取り締まりに呼応し、”環境法の刑事規定の執行が優先事項である “と指摘しました。キム氏はまた、司法省がサプライチェーンの問題に引き続き注力することを指摘し、企業は “刑事制裁の可能性を考慮し、サプライチェーンに十分な注意を払うべき “と注意を促しました。

オース氏:では、こうした規制の変更に企業がどのように備えることができるかに話を移しましょう。具体的には、このような状況において、企業の法務担当者(GC)はどのような役割を果たすのでしょうか。

フィッシャー氏: GCは、コーポレートガバナンス、戦略、業務にサステナビリティの視点を取り入れる上で、重要な役割を果たすべきです。ガバナンスの面では、例えば、取締役会はサステナビリティ関連のリスクに対する監督責任を十分に認識する必要があります。法務責任者は、現在および将来のESG規制がそれぞれの役割にどのように影響するかについて、経営陣並びに取締役会を教育し更新する努力を主導する資格、信頼性、およびアクセス権を持っています。

オース氏: 法務責任者が取締役会や取締役会のESG委員会と協働する例としてどのようなものがありますか?

フィッシャー氏: 法務責任者は、委員会と協力して、サステナビリティのリスク評価や、開示・報告プロトコルの策定によるリスク開示の最善の方法について検討できます。また、報告基準は進化しているため、開示が引き続き重要かつ正確であることを確認するために、定期的なレビューを行う必要があります。

法務責任者はESGが企業の多くの機能分野に関わる広範な問題を包含していることを理解する必要があります。サステナビリティ、戦略、リスク、人事、コミュニケーション、IR、政府関係の責任者と連携する必要があります。これらのグループがテーブルにつくことで、戦略、運営、開示、報告においてESGの各要素を完全に統合するためのコンプライアンスに全社的に注力することができます。

オース氏: 規制当局とどのように協力すべきでしょうか、また、なぜ協力が不可欠なのでしょうか。

フィッシャー氏: いくつかの理由から、規制当局と強固な関係を築く必要があります。第一に自社に影響を与える規制の作成のために、規制当局と積極的に関わる必要があります。第二に、規制当局の問題や優先事項を理解することで、潜在的な規制の落とし穴を予期し回避することができます。第三に、規制当局が会社の事業をよく知り、彼らの目から見て信頼を得ていればいるほど、紛争や危機において、会社の立場を十分に聞き入れ、考慮される可能性が高くなります。

オース氏: このように規制が目白押しの中で、企業にとってプラスになることはあるのでしょうか。

フィッシャー氏:私の経験では、ESGのコンプライアンスをリスクや責任の問題としてのみ捉えるのは戦略的な誤りであるため、プラス面があると主張します。それよりも、ESGのコンプライアンスを競争優位の源泉と考える方がはるかに良いアプローチです。この分野でコンプライアンスカーブを先取りすることは、投資家、消費者、従業員に対して企業が差別化できる重要な方法です。

企業へのアドバイスとしては、競合他社がESGにどのような取り組みをしているかを知り、それをより良い形で実践することです。


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