ESGが金融機関の新たな課題を浮き彫りに

変化するESGの取り組みと投資環境のなかで、金融機関に新たな課題が急浮上

環境・社会・企業統治(ESG)は、多くの企業の経営陣にとって戦略的優先課題となっています。各国政府が一丸となって気候変動対策に取り組んでいるため、多くの業界が影響を受けており、世界中の金融当局は、人権、社会正義、多様性などの課題は、組織のより伝統的な価値観と併せて取り扱われるべきものと指摘しています。

おそらくこのESGの潮流を最も強く感じているのは、そこで重要な役割を果たすとみられている金融機関です。金融機関は産業部門に資金を提供し、個人資産の投資経路となっているだけではなく、化石燃料依存の経済から再生可能エネルギー主体の経済への移行の管理にも深くかかわっています。

さらに、国際・地域の金融当局は、投資家がESG投資の機会とリスクをより深く理解できるよう、資産運用会社と証券会社のサステナビリティ関連開示規則に共通の基準を設けることを提案しています。

ESG関連投資の急増に伴い、新たな案件の数値化に苦慮

こうした急速な展開を検証するため、トムソン・ロイター・レギュラトリー・インテリジェンスは、変化するESGの取り組みと投資環境における金融機関のリスクと機会に着目した新レポート、『ESG: 金融機関の急速に変化する課題』を刊行しました。

このレポートによると、新たな企業要件が浮上しているのは、ESG関連投資が爆発的に増えたためだと指摘しています。2020年のサステナブル投資は、世界の5大市場で推定35兆3,000億ドルに達し、運用資産総額の3分の1以上を占めました。

そのため、資産運用会社、銀行、証券会社、そして規制当局は困難な仕事に直面しています。ESG課題に伴うリスクは目新しいものが多いため、数値化に苦慮しているのです。例えば、気候リスクは独特かつ複雑で、リスクの長期的な性格とも相まって、その脅威を測定して定量化することは金融機関にとっても、新しいルールと規制の策定を迫られる規制当局にとっても、気が遠くなるような作業になります。


ESG課題に伴うリスクは目新しいものが多く、数値化が難しいことから、資産運用会社、銀行、証券会社、そして規制当局は困難な課題に直面している。


より包括的なステークホルダー戦略を

また、世界的な気候リスク対策の緊急性は当然としても、金融機関は、他の多くの社会問題にも懸命に取り組んでいます。これらは、従業員の多様性とインクルージョン(包摂)から所得格差と社会的不公正、特に事業対象地域における貧困層の問題まで多岐にわたります。

この議論の核心には企業の「存在意義」をめぐる根源的な問題に加え、株主価値の最大化という長年の唯一の理念を捨て去り、より包括的な「ステークホルダー」戦略を採用すべきかどうかという問題が横たわっています。そうした戦略は、企業の意思決定プロセスの中で従業員、地域社会、その他の構成員に配慮することを前提としています。

例えば、金融機関がコロナ後の「オフィスへの復帰」方針をどう扱うかなどは、経営側が直面する新たな現実を示す一つの課題にすぎません。規制当局は、米国と英国の当局者が新しいダイバーシティ&インクルージョン規則の導入を検討していると述べたことに注目しています。

企業統治の鍵は効果的なガバナンスと監視

ESG課題に関する国際的な政策協調がなければ、気候、ダイバーシティ&インクルージョン、ガバナンス指令に関してそれぞれの法域がそれぞれに異なるアプローチをとる可能性が高くなり、金融機関は、寄せ集め状態の新しい規制方針と開示要件に向き合うことになりかねません。

実際、金融機関がこのように複雑なルールと規制に上手く対応できるかどうかは、その機関のガバナンス、コンプライアンス、人材、リスクマネジメントプロセスに大きく左右されます。にもかかわらず、企業統治は、重要なESG課題を議論する際に後回しにされがちです。しかし、特に現在の経営陣が直面するこうした重要課題の複雑な性格を考えると、効果的なガバナンスと監視は必要不可欠です。

ESG課題に対応するために

このレポートはG20諸国の新たな政策と規制を調査したもので、金融機関がこれらの規制上の課題に対応するため、今、何ができるかについて一定の指針になることをめざしています。金融機関の経営陣は次のような点について自問自答し、検討することにより、答えの一片が見えてくるでしょう。

当社は現在、ESG課題に対する包括的なアプローチと、これらの新しいリスクを既存のエンタープライズリスクの枠組みの中に取り込むための方法を策定しているだろうか?

当社のコンプライアンス、人材、リスクマネジメントの専門家の役割と責任範囲はどうなっているのか。また、必要なスキルセットをもつ適切な人材を配置しているだろうか?

当社は、気候変動等のリスクに最もさらされている顧客をどのように特定できるのか。また、そうしたリスクの緩和に向けて顧客とどのように協力できるのか?

ESG課題をめぐる新しい、そして依然流動的な規制環境への対応に関してすべての答えを得ることは不可能ですが、金融機関が焦点となっている課題について、また経営陣がどのような行動を検討すべきかについて理解を深めることになれば幸いです。

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