影響分析:加速するアジア太平洋地域のESG政策

アジア太平洋地域の各規制当局は、環境・社会・ガバナンス(ESG)を優先事項と位置づけ、自国の政策やビジョンに取り入れています。アジア太平洋地域のESG政策は加速の一途を辿ってはいるものの、未だ初期段階にある現状に対し、投資家やアナリストは、共通のESG報告書における基準を設けることでデータ収集プロセスの合理化や金融市場におけるESG政策の進展を評価できる質の高いデータ生成の実現を求めています。

アジア太平洋地域の主要な金融当局は、ESG政策の遂行やコンプライアンスの策定、品質開示でESG報告書の改善を図っています。しかし、データを適切に評価し、規制当局、プロモーター、投資家を支援するためには、アジア太平洋地域共通の一貫性を持った取り組みと明確な基準や定義が必要となります。

政策の立ち上げ

気候変動の問題が顕在化し、グリーン電力への移行が奨励されはじめ、アジア太平洋地域の経済への考え方が大きく変化しました。持続可能性に直接つながる取り組みや化石燃料への依存度を下げ、グリーン投資を誘致する計画が実施されています。持続可能性を重視した取り組みはコロナ禍で勢いを増しました。このコロナ禍がきっかけとなり、アジア太平洋地域では商品やサービス、医療資源の供給において、1または2カ所の商業ハブによるサプライチェーンに依存し過ぎた傾向が見られ、多様性を欠いていることが明らかになりました。これは経済パフォーマンスにも影響を与えてしまいます。

先日OECDが発表したレポート「ESG Investing:Practices, Progress and Challenges」によると、専門家が管理するESGの主要な要素を組み込んだポートフォリオの金額は、世界全体で17.5兆ドルを超えています。また、機関投資家や個人投資家向けESG関連の取引投資商品の成長は1兆ドルを超え「主要な金融市場全体で急速な成長を見せている」と評価されています。しかし、この総額のうちアジア太平洋地域が占める割合は明確にされていません。

ESGに関するリスクの形態や考慮事項については様々な見解があります。一般的な政策は最近の成果から見て、持続可能かつ長期的な財務リターンを生み出すために、環境・社会・ガバナンスの要素を資源配分やリスク判断に取り入れるアプローチと言われています。

各国の政策

中国

中国は投資家にとってのESGの重要性を強く訴えています。2020年にはコーポレートガバナンスコードの枠組みを変更してESG政策を実施しました。最新の五か年計画でも気候変動対策を優先事項として盛り込んでいます。

香港

香港は政策措置が強化することで持続可能なバンキングとグリーンファイナンスのハブとして金融センターの発展に取り組んでいます。香港金融管理局は、企業が容易にグリーンファイナンスに特化できるように複数の施策を導入しました。また、香港証券取引所は、コーポレートガバナンスの透明性や情報開示に関するその他の要件を改善するために、ESGに焦点を当てた上場要件を新たに設定しました。

シンガポール

シンガポールは他の主要市場と異なり、持続可能な金融ハブとして地位を確立することを推進しています。シンガポール金融管理局(MAS)は、20億ドルを費やしESGインテグレーションを取り入れ、投資家や企業を誘致すると発表しました。また、シンガポール証券取引所では、上場企業向けにサステナビリティレポートを開示しています。これと並行して、シンガポールの各銀行はESG債発行に関する承認に関与し、化石燃料の依存度を減らそうとしています。

オーストラリア

オーストラリアはESGを連邦レベルの関心事となっており、業廃棄物の排出についても規制や法律も多く存在し、様々な分野でESGの情報開示に関する規制が設けられています。会社法に関する規制ガイダンスでは、「企業が直面しているESGリスクが財務実績やその他の重要な問題に影響を与える場合のみ開示が求められる」としています。

また、上場企業の場合は、ASXコーポレートガイダンス「ASX Corporate Governance Counsel Principles and Recommendations 4th ed」があり、上場企業はESGリスクとその管理方法を盛り込んだ年次コーポレートガバナンスステートメントの開示が求められます。また、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)では規制ガイダンスを設け、連邦は豪州現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)が適用されています。

マレーシア

マレーシア証券委員会は、マレーシアの資本市場に向けて持続可能かつ責任ある投資ロードマップを開示しています。また、マレーシア証券取引所は、上場要件としてESG報告書の提出を義務付けました。

日本

日本もESG政策に本腰を入れ始めました。経済産業省は、企業に対してESGパフォーマンスの報告を義務付けるガイドラインを作成しました。また、東京証券取引所は昨年、ESGに関する情報開示の要件を発表しました。さらには、日本の銀行や政府が、サステナブルインデックスに投資する日本の主要ファンドに混じって「グリーンローン」に関与するという大きな前進がありました。

アジア太平洋地域共通のESG基準による分析が不可欠

ESGの課題に対する理解が浅く、また比較できるデータが少ないためにESGインテグレーションの進展が追跡できない現状があります。ESGデータは増加していますが、ESGの評価はプロバイダーによって異なります。

国や企業によって、より多くのデータをより洗練された評価に反映するために、さまざまな方法が用いられるので結果には大きなばらつきが出てしまいます。

これは、投資家が異なるサービスプロバイダーを利用している場合、入力スコアやESG投資の選択の形が、格付けプロバイダーによって操作されることを示唆しています。その結果、ファンドによるESG企業の信用格付けの比較結果に影響を与えることになるのです。

OECD事務局は、ESGスコアの高さとリターンとの間に一貫性のない相関関係を指摘し、プロバイダーが異なれば結果も異なることを明らかにしました。「ESGスコアの予測力には一貫性がなく、ESGスコアが高い一部のインデックスやポートフォリオのほうが市場でのパフォーマンスを上回る一方で、データプロバイダーによってはESGスコアの低いポートフォリオでも同様のことが言えると証明されました。」

規制当局、発行体、投資家が、ESG報告書における単一の国際基準を設ければ、データ収集プロセスを合理化して質の高いデータを作成することができます。この課題に向き合わず放置すると、投資家の混乱やプロバイダー間でのESG評価での大きな違いが生じてしまい、ESGポートフォリオの意図が薄れるだけでなく、企業側も不公平な評価を受ける可能性があります。

ESG定義付けが不可欠

ESGインテグレーションは、規制、コンプライアンス、情報開示の厳格化とともにアジア太平洋地域の金融ハブで加速の一途を辿っています。そこで、アジア太平洋地域におけるESGインテグレーションには、規制当局、プロモーター、投資家によるより一貫した取り組みが必要となり、標準的な手順の作成を開始しました。これはESG報告書における単一の基準を設けることを目指し、企業や規制当局がアジア太平洋地域市場でESG投資の浸透度を評価するうえで役立ちます。

しかし現時点ではまだ手探り状態であり、今後の進展が期待されます。ESG投資を正しく行えば、長期的な財務上のリスクと機会を投資の意思決定に組み込むことができるため、適切なリスク判断を下すことが可能となります。

(記事 規制インテリジェンス Niall Coburn)

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