今年発効したRCEPは、アジア諸国間に新たな貿易の機会を創出し、地域の経済回復を加速させるだろうと期待されています。
世界最大の自由貿易協定(FTA)である地域包括的経済連携(RCEP)が2022年1月1日に発効しました。変革のための協定であるRCEPは非常に大きな意味を持っていると言えます。
RCEPがもたらすもの
トムソン・ロイターのグローバル・トレード・リーダーで、アジア新興国市場を担当するゾーイ・マルティネスは、「RCEPはアジア諸国間に新たな貿易機会を創出し、地域の経済回復を加速させる」と語っています。その一環として、この協定では今後10年から15年の間に90%以上の商品の関税を撤廃し、投資と知的財産に関するルールを導入して自由貿易を促進します。 同協定は、世界の人口、世界の国内総生産(GDP)の観点から世界貿易の約3割をカバーしています。米国・メキシコ・カナダ協定、欧州経済領域、環太平洋パートナーシップ包括的・発展的協定(RCEPはこれと重複)よりも規模が大きいのです。
RCEPによって日本は、初めて中国や韓国と自由貿易協定を結ぶことになるため、大きなビジネスチャンスとなる可能性が高く、「電気製品、電子製品、機械、自動車部品、一部の農産物や食品を生産する日本企業は、中国に輸出する際に関税面において大幅な恩恵を受けることになる」と、マルティネスは指摘します。日本政府は、この協定によってGDPが2.7%増加し、約57万人の雇用が創出されると見込んでいます。
RCEPはまた、アジアにおける中国の経済的リーダーシップを強化し、機械、電子機器、繊維、衣類などの対日輸出は、低関税または無関税の恩恵を受けることになります。 RCEPの参加国は、中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、そして東南アジア諸国連合の10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)となっており、香港が加盟を申請、インドにも加盟を働きかけています。
アジア地域全体の活性化
シンガポールのアジア貿易センターのエグゼクティブディレクター、デボラ・エルムズ氏は、「これはアジアのための、アジアによる貿易を確立する貿易協定です」と語り、「もちろん、これまでもアジアでは多くの貿易が行われてきましたが、最終的にアジアで生産されるものの交易はそれほど多くありませんでした。その理由のひとつとして、アジア域内の輸出入、特に完成品の取引は、関税や非関税障壁などの課題が非常に困難かつ、高コストであったため、本来あるべき域内の取引量が少なかったことが挙げられます」と、説明します。
同氏はRCEPが完璧な協定ではないことを認めながらも、企業がアジア地域の取引のためにアジアを拠点としたサプライチェーンを構築する可能性が高くなることを付け加えています。「この協定が発効し、企業にとってより意味のあるものになれば、時間の経過とともに貿易量は加速していくでしょう」。
プロセスの簡素化と強固なサプライチェーンの構築
多くの企業がチャイナ・プラス・ワンのサプライチェーン政策を導入しており、より強力で柔軟なサプライチェーンを構築するために中国に加え、その他の国で生産を行っています。 RCEPは大幅な関税削減を実現するだけでなく、これまで複雑で多様なFTAに頼っていた地域の貿易を標準化するというメリットがあります。今までのFTAは異なる原産地規則や認証手続きを必要とするなど、個々の対応が複雑で、管理に多くの手間や時間を要していました。
一方、RCEPは、複数のFTAを単一の協定に置き換え、全加盟国共通の原産地規則、単一の原産地証明書、通関の迅速化、世界税関機構調和システム(HS)と同期した製品固有の規則を適用し、取引プロセスが格段に簡素化されます。
課題の克服に有効な専用プラットフォーム
RCEPは大きなメリットをもたらしますが、以下のような課題もあります。
- RCEPの関税率の一部は、おそらく20年という長い時間をかけて徐々に引き下げられるため、既存のFTAの方が短期的には良い税率になる可能性がある。
- 全ての RCEP 参加国が自己証明の準備ができているわけではなく、完全に実施するには数年かかる可能性がある。
- 原産地規則に関する追加要件がいくつかの HS コードに存在する。
- 中国と韓国は特に監査を開始することに積極的であるため、企業は一貫してコンプライアンスを維持することが重要となる。そのため、監査のための証拠として、特に自己証明書を使用する場合は、FTA文書を注意深く管理する必要がある。
残念ながら、サプライチェーンに起こり得るリスクを分析し、最適な選択肢を見つけるために必要な関税やFTA関連のデータは、企業のERPソフトウェアに組み込まれていないことが多く、エクセルなどを使用して、手作業で管理されているのが現状です。一方、自動化されたサプライチェーン専用のソフトウェア・プラットフォームを使用すれば、企業の貿易担当者は、RCEPによって削減できるコストを把握しつつ、業務上必要な、あらゆる最新の規則と規制に準拠していることを確認しながら、十分な情報に基づいた業務上の決定を下すことができます。
FTAを最適化する4つのステップ
マルティネスが推奨するのは、以下の4ステップからなるプロセスです。
- 関税の最適化については、サプライチェーンをマッピングし、取引の全体像を把握したうえで情報を整理します。現在、どこで製造しているか?どこに出荷しているか?製品の種類は?製品のHS分類は? といった内容です。
- どのFTAが最も効率的に最大の利益をもたらすかを評価するために、利用可能なFTAを確認し、各FTAのコスト削減額を割り出します。そのうえで、最適なFTAを利用するかどうかを判断します。
- 次に、調達した原材料と製造工程のうち、何がFTAの対象となるかを確認します。このステップをスムーズに実施するために、FTAを管理するプロセスの確立、FTAステータスや原産地証明に関するサプライヤーとの連携、製品ごとの原産地規則を満たしているかの確認、そして、すべてのFTAにおいてメリットを最大化するために自動化を検討することが必要です。
- 取引コストを最適化するために、FTAのメリットを生かし、その変更に適応する効果的な関税最適化戦略を展開することが重要です。自動化されたプロセスによって、戦略的な選択が可能となり、また、反復的な手作業による人的コストやミスによるリスクを下げることができます。さらに、コンプライアンスリスクを最小化し、FTAを最大限に活用し、コスト競争力を向上させることができるのです。
貿易管理業務が自動化されなければ、このプロセスは多くの労力と時間を要する手作業に依存することになり、業務にさらに多くの時間を費やし、ミスが頻発するリスクを生むことになるでしょう。
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