エマージングリーガルテックフォーラム:従来の法的課題がメタバースの成長を導く

法律の専門家にとってメタバースは、自身の業務を向上させ、さらに、新しいテクノロジーを導入するクライアントにサービスを提供する素晴らしい機会となる可能性があります。しかし、新しいことに取り組もうとする時には、通常の法的関与のルールが依然として適用されることを忘れてはならないと、トムソン・ロイター研究所の第5回エマージング・リーガル・テクノロジー・フォーラムのパネリストは警告しています。

「アプローチ・ザ・べルジ:Web 3.0テクノロジーにおける機会と報酬」と題されたセッションで、パネリストのグローバルユニバーシティシステム社の法律顧問でオーシャン・フォールズ・ブロックチェーン・グループの理事であるエイミー・テルハール氏は、メタバースの利点について説明し、メタバースは単なる1つのテクノロジーではなく、「まったく新しい方法でテクノロジーと連携する能力」 と指摘しました。

例えば、一般的な取引では、記録と情報を担当する当事者(多くの場合、銀行などの仲介者)が1人います。しかし、メタバースがブロックチェーンを用いて取引を行う場合、両当事者は必要に応じて情報にアクセスし、変更することができ、その記録はすべての当事者によって検証可能な安全な記録となります。このように、メタバースは 「仲介者やゲートキーパーを無力化し、人々に力を与える」 とテルハール氏は述べています。

エイミー・テルハール氏

一方で、メタバースは、その空間に関与していない人々にとって、定義するのが難しい場合があると付け加えました。「文中のメタバースという言葉をサイバースペースという言葉に置き換えて考えてみると、その意味の90%は変わらないことがわかるでしょう。」

セキュリティ企業ボルトイ社の最高技術責任者であるマシュー・ラパード氏は、メタバースパラダイムがどのように相互作用を変化させるかは、多くの人々が日常的にインターネットとどのように接しているかを考えてみるとわかりやすいと述べています。すべての人が、動画を録画する機器、位置情報を追跡するアプリ、銀行口座などの安全な情報へのアクセスを容易にしている、など、一般的に、「プライバシーの概念が失われている 」と彼は言います。一方、メタバースは、別の自分を演出することで、ユーザーに別の道を提供することができます。Vチューバ―と呼ばれるビデオコンテンツクリエイターは、オンライン上で完全に現実と切り離されたアバターとして登場し、視聴者は彼らの実際の姿を見ることはありません。

ラパード氏は、現実の公共の場より、デジタルの仮想世界の方がプライバシーの管理がより確実にできると説明します。「メタバースとは、自分のアイデンティティをコントロールしながら、いかにスマートコントラクトと相互作用するかを制御する能力です。」

メタバースと法の交わり

しかし、法的紛争が発生した場合、メタバースの新しさとプライバシー重視の姿勢は、利点であると同時に障害にもなり得ます。トロントに拠点を置くインカ法律事務所の代表弁護士であるインカ・オイエロウ氏は、メタバースと関連するブロックチェーン技術は「例えば不動産で見られる多くのプロセスを簡素化する」と考えていますが、メタバース関連の紛争の解決はまだ「非常に仮説的」であることを認めています。

信託と財産の問題の場合を考えてみましょう。所有者が亡くなった場合、誰がメタバースの財産の所有権を取得するのでしょうか?ブロックチェーン内に組み込まれたスマートコントラクトは、契約の特定の条件を実行することに非常に優れていますが、財産の移転がどのように実行されるか、また適用される可能性のある司法権の規則を考慮する必要がある場合もあります。

「カナダのブリティッシュコロンビア州の管轄権と、アメリカのニューハンプシャー州の管轄権は全く異なるので、非常に複雑です。」とオイエロウ氏は指摘します。このような紛争に対応する法律事務所には、裁判管轄の問題だけでなく、テクノロジーを理解し信託や遺産に関する法律に精通した弁護士が必要でしょう。

マシュー・ラパード氏

さらに、物理的な不動産の場合、定期的に問題になるのが領空の取り扱いです。ある不動産の上空や下にある三次元の領域は誰のものなのか。しかし、メタバースにおける不動産はそのように機能しないため、領空権の判断が難しくなります。物理世界の前提は、「メタバースに簡単に引き継がれない。しかし、それは同時にチャンスでもある」とオイエロウ氏は言います。「信託や遺産、商業用不動産に携わる人々にとって、多くの有益な法的基盤がある。」

実際、法律家であるパネリスト全員がメタバースにおける新たなリスクを明確にする機会があることを指摘しています。カナダデジタルID認証協議会(DIACC)は、機密性とプライバシーを維持しながらオンラインIDを認証する方法を調査していると、ラパード氏は指摘します。オオイエロウ氏は、顔認証と暗号通貨ウォレットを連携させているスタートアップ企業についても指摘し、顔スキャンとユニークコードの両方を含む二重要素認証によって、暗号資金を保有するウォレットが開かれると述べました。

しかし、このような機会が生まれても、法律関係者はリスクに注意し、倫理的ガイドラインを遵守する必要があります。オフラインでの身元を明かさないVチューバ―にも、法的・倫理的な問題があるとオイエロウ氏は指摘します。「多くの顧客は、メタバース環境において自分の身元を明かしますが、中には匿名を好む顧客もいます。」しかし、オンタリオ州のような州では、これは問題になる可能性があります。法律相談をする前に、弁護士は倫理的にクライアントの身元を確認する義務があります。特に、両者がバーチャルな世界でしか会話をしていない場合、クライアントは物理的に、倫理的な境界線が異なる、あるいはそれほど厳しくない管轄区域にいる可能性があるのです。

インカ・オイエロウ氏

つまり、バーチャルな世界が出現しているとはいえ、物理的な配慮は必要なのです。したがって、弁護士は、メタバースのアバターそのものだけでなくアバターの背後にいる人物から「有効であると納得できる身分証明書を入手するよう注意する必要がある。」と、オイエロウ氏は説明しています。

最終的に専門家たちは、メタバースは今後も進化し続け、今後数週間から数ヶ月の間に新たな機会と潜在的な落とし穴の両方が出現することで意見が一致しました。どのように発展していくにせよ、メタバースが今後注目すべき魅力的な空間となることは間違いありません。


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