アジアのGCが夜も働く理由とは

パンデミックが発生した昨年、アジア太平洋地域の企業は類例のないリスク管理に迫られました。パンデミックの猛威は今も収まらず、収まらない限りそれは続きます。その只中にあって、法務部門のリーダーは、商談をまとめ、重大な意思決定を下すビジネスエグゼクティブを支えています。こうして、ゼネラルカウンセル(GC)の重要性が高まりました。

トムソン・ロイターでリーガル・メディア・グループ編集主幹を務めるRanajit Dam(ラナジット・ダム)氏が、アジアに拠点を置くゼネラルカウンセル10人ほどにバーチャルラウンドテーブル方式で集まってもらい、それぞれの体験と、今後1年に対する懸念を語りあってもらいました。その内容を、類似の課題に対処する際に役立つよう、3部構成にまとめてレポートします。

1. 複雑化する業務

多くのGCにとって、昨年は、職責が法務を主導するという従来の範囲を超えて広がった年でした。簡単に言えば、「通常の業務」ではないものになっていました。企業は事業継続のための活動強化を余儀なくされ、社内弁護士はそうした状況に速やかに適応することが求められたのです。

ラザダグループの法務担当エグゼクティブバイスプレジデントのChristopher Y. Chan(クリストファー・Y. チャン)氏は、アジア地域では法務機能の地殻変動が進行していると考えています。チャン氏の言葉を借りれば、GCはこの状況により「緊急時の指揮官」への転換を強いられています。

「こうした試練の時にあって、私たちはリーダーシップを大いに学ばなければなりませんでした。法務機能は経営層からの信頼を得ていなければなりません。この時期を通じて、アジア中で法務機能はより尊重されるようになり、優先順位・人員・予算の面で有利になりました」

GCは、所属企業がテクノロジーを使えていなかったら、使える企業になるよう支援すべきです。ソフトウェアやオートメーションなどのテクノロジーを利用する新たなワークフローとプロセスを導入することによって、法務機能を効率化し、新たな機会を開拓して、ビジネスのマインドセットを変えることができます。それは、GCが影響力を及ぼすことのできる領域であり、ポートフォリオの一部にすることのできる領域です

Christopher Y.Chan(クリストファー・Y. チャン)(ラザダグループ法務担当エグゼクティブバイスプレジデント)

フラートン・ヘルスケアで国際法務担当シニアバイスプレジデント兼M&Aテクノロジー取引担当法務リードを務めるSarita Misir(サリタ・ミシール)氏が強調したのは、一部の領域ではGCの存在が特に重要となり、法務以外でもビジネスに関わるさらに広い問題に助言できる立場にあるケースがかなりあるという点です。とりわけ、事業の存続と成長に向けた戦略計画立案を支援する際に、GCはその価値を発揮します。

コロナ禍によりGCは、高いレベルの「回復力、適応力、柔軟性」を示さなければならなかったとミシール氏は説明します。

GCの役割が、真に事業と戦略に関する助言を行うというものに進化していった様子を、私は目の当たりにしました。この役割の下では、GCは単に火消しとして、あるいは、取引や交渉を承認するために呼ばれるのではなく、戦略・事業・運営を展望するための存在なのです

Sarita Misir(サリタ・ミシール)(フラートン・ヘルスケア国際法務担当シニアバイスプレジデント兼M&Aテクノロジー取引担当法務リード)

SGXで法務コンプライアンスコーポレートセクレタリー担当長を務めるGlenn Seah(グレン・シア)氏は、次のように指摘しています。リモートワークの普及で、GCが新たに取り組むことになった課題の一つに、企業文化の維持があります。人的交流が少なくなれば、従業員、特に新人は孤立し、企業のコアバリューに触れる機会を失いかねません。この新しい業務のダイナミクスを認識し、適切な文化構築活動を実施するよう意識的に努めなければなりません。

「注意を怠れば、自ずと母船との繋がりを失ってしまう傾向があるのです」

南洋理工大学(NTU)でGC兼チーフリーガルオフィサーを務めるGreg Chew(グレッグ・チュー)氏も、GCの職責が拡大しつつあることに同意し、自身も最近NTUでチーフストラテジーオフィサーを兼任するようになったことに触れています。そして、その役割は、本質的に従来の法務の仕事を超えていると明言しました。

それに伴い、チュー氏は大学という場が持つ学際的な要素の価値を一層高く評価するようになったと言います。法的な観点からだけでなく、今では、戦略的観点から上層部の利害関係者に助言しなければならなくなりました。

2. 予算は縮小、業務は拡大

予算の削減は、企業法務部門にとっては今に始まったことではありません。コロナ禍においてGCに求められたのは、危機の時にあって企業の価値をより高めることにありました。プレッシャーが大きいほど成果が上がるとするこの言わば「圧力鍋方式」は、消費の場が限られているにもかかわらず、今も続いています。

GLPでマネージングディレクター兼GCを務めるMark Tan(マーク・タン)氏は、法務の価値を示すことがGCの役割拡大につながると主張します。その目的は、法務分野を超えて助言と支援を提供し、事業の成長をサポートすることにあります。予算の獲得に向け、さらにはリーガルテックに対する投資を目指してビジネスケースを構築する場合、このアプローチが役に立つでしょう。

「法務機能が企業の事業戦略にしっかり沿っていれば、予算は後からついてきます」

予算をにらみつつどの法務の仕事をアウトソースするか決めることも、GCが夜な夜な頭を悩ませる原因です。

インターナショナルSOSでグループゼネラルカウンセルを務めるGreg Tanner(グレッグ・タナー)氏は、時には外部のアドバイザーに支援を求めることにしています。この体制を取るのは、通常はプロジェクトが大規模であったり専門的な経験知が求められたりする場合ですが、法務の仕事を独立した法律事務所に請け負ってもらうこともあります。

関連資料: Gearing up for 2021: Legal Business Operations Whitepaper

3. 法務チームへのサポート(燃え尽きの防止)

GCが法務を実施する方法は、インテイクから案件のマネジメントに至るまで、リモートワークによって確実に変わりました。法務部門の機能がどれほど迅速に遂行されたとしても、従業員の心身の健康に対する目配りはおろそかにできません。

HISマークイットでチーフダイバーシティエクイティインクルージョンオフィサー兼APAC金融サービス担当GC兼国際知的財産法務部門長を務めるDessi Silassie(デッシ・シラシー)氏は、「井戸端会議」の時間を1日15分確保し、定期的なコミュニケーションを取るようにしていると述べています。

「チーム一人ひとりの状況をより深く理解するようになりました。たとえば、自宅の仕事環境について以前より親しく話したり、どうやって対処しているかを尋ねたりするようになっています」

シラシー氏が実施したもう一つの対策は、プロジェクト間の風通しをよくすることです。チームが事務所内でしていたような日常的な会話を取り戻すため、互いに協力するよう皆に促しています。

とりわけ注意を払ってきたのは、子どものいる人や特に一人暮らしで孤独と向き合わなければならない若い人のような影響の大きいグループです。そうした人たちを適切にサポートし、キャリアパスを外れないようにするためにできることを考えています

Dessi Silassie(デッシ・シラシー)(HISマークイットチーフダイバーシティエクイティインクルージョンオフィサー兼APAC金融サービス担当GC兼国際知的財産法務部門長)

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