世界貿易機関とのインタビューシリーズの第一弾として、バージニア・ギネイン(Virginia Ginnane)が世界貿易機関(WTO)のシェリ・ローゼナウ参事官(Sheri Rosenow)に新型コロナが国際貿易に与える影響について伺います。WTOの前事務局長からのメッセージもご紹介します。
今回シェリさんは、世界全体の物品の移動に伴う現在の課題を緩和するにあたって貿易関連情報がどのような価値を持つかに焦点を当てたWTOの最近の調査を中心に語っています。またWTO前事務局長は、2020年中とそれ以降の見通しを示しています。
WTOは最近の調査で、コロナ禍における貿易関連プロセスについて、世界の政府や民間部門の多くの組織がどのように考えているか調べました。
1. WTOがこの調査を実施したきっかけと、調査結果についてどう思われたか、お聞かせください。
今回の調査は、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する第一波の中で、それが国境を越えたモノの流れにどのような影響を与えているのか、WTOの貿易円滑化協定(TFA)の実施がこの状況をどう緩和するのかを見極めるために実施したものです。
結果は、TFAを完全に実施することでWTO加盟国がコロナ禍に対処する一助となり、パンデミック後の経済回復に有利に働き、自然災害など将来の混乱に対処することに役立つという、WTO、国際商工会議所(ICC)、貿易促進グローバルアライアンス(Global Alliane for Trade Facilitation)の信念を補強するものでした。

調査の回答者が、情報へのアクセス強化と国境当局間の協力がコロナ禍の貿易にプラスの影響を与えるだろうと提言したことは、驚きではありませんでした。情報へのアクセスは常に重要ですが、コロナ禍が始まった時のように、ルールやプロセスが急速に変化している時はなおさらです。
コロナ禍の前、多くの加盟国は、国境当局ごとに権限や業務方法が異なるため国境当局どうしの協力は困難であると感じていました。しかし、国内および近隣諸国と協調的かつ効果的に対応する上で、こうした国境当局間の協力は不可欠です。各国境当局がコロナ禍に対処するための管理措置を緊急に実施する際、施策の重複や衝突を回避する必要があるのです。
2. 貿易関連情報の実施をどのように改善することが理想的だと思われますか。
これは、WTO加盟国がTFAを交渉する際に自問したことです。その結果、協定には、輸入、輸出、通過の情報をより入手しやすくすることを目的とした規定が数多く含まれています。
TFAは、法規制、関税・手数料、輸入制限などの情報の公開を義務付けるのに加えて、国境当局に対し、手続きの具体的な手順をインターネット上に公開することを要求しています。こうした実務的なガイドは、中小企業がプロセスを理解するために特に重要です。この協定はまた、要請に応じて詳しい情報を提供できる窓口の設置を義務付けています。
事前教示制度は、関税や原産地法規制が物品にどのように適用されるかについての拘束力のある情報を輸入者が得られるようにします。
政府と民間部門との定期的な協議を義務付けることは、貿易業者が規則や手続きをよりよく理解することに役立ち、貿易業者が自らの意見を表明する場となります。
こうした措置が実施されれば、急速に変化する状況下でもWTO加盟国は情報にアクセスしやすくなります。
3. 協定の実施を改善する上で、テクノロジーの役割はどの程度重要ですか。そのプロセスの中で、テクノロジーが最も価値を持つのはどこですか。
テクノロジーは、協定全体の多くの規定の実施を強化することができます。例えば、税関管理のためのデータ収集と物品のリスクレベルの特定、輸送中のトラックの追跡、保証の迅速な解除の許可、税関協力のための情報交換、地域レベルでの認定事業者の相互承認などです。
協定では加盟国に対し、貿易業者が必要な書類を一か所に集約して提出し、すべての関係政府機関に配布できるようにするための、単一の窓口を設けることを奨励しています。また、可能な場合には、輸出入関税・手数料の電子決済を選択できるようにすることも求めています。
調査の回答者の中には、コロナ禍で最も好ましい影響を与えると思われる規定が単一窓口と電子決済だと答える人もいました。
コロナ禍で、関税や手数料の支払いの混乱を避けるため、また人的接触を避けることで健康と安全を守るために、電子決済システムの導入を進めた国もあります。
コロナ禍の中では、貿易業者、仲介業者、代理業者とのビデオ会議の方が、対面での会合より安全なだけでなく負担も少ないと述べる回答者もありました。
4. 新型コロナウイルスの影響をもっと広く見た場合、WTO貿易円滑化協定ファシリティがコロナ禍への対応においてどのような役割を果たしているか説明していただけますか。
WTO貿易円滑化協定ファシリティ(TFAF)は、WTO加盟国のうち開発途上国と後発開発途上国がTFAの実施に必要な支援を得やすくするために作られました。コロナ禍において、当ファシリティはバーチャル・プラットフォームを通じてWTO加盟国にトレーニング・プログラムを提供し続けており、私たちは、われわれが提供する助成制度への新規申請をしやすくすることを目指します。
当ファシリティはまた、ウェブサイトwww.TFAFacility.orgでも豊富な情報を提供しています。私たちはコロナ禍への対応として、貿易円滑化と新型コロナウイルスに関するリソースのオンライン・リポジトリを作成しました。これらのリソースは、約30の提携組織・団体によって作られたものです。私たちは、開発パートナーが提供する支援プログラムの実施に関する情報を提供しており、コロナ禍における実施予定の変更に関する情報を取り入れてこれを更新しました。私たちが作成した「通知の作成方法」のウェブページでは、加盟国が必要な通知を完成できるようにするための手引きとテンプレートを提供しています。これには、コロナ禍による遅延が発生した場合の実施期限の延長申請も含まれています。
そして今、未来を見つめて…
WTO:グローバル貿易の将来予測

Roberto Azevêdo
WTOからのメッセージの中で、ロベルト・アゼベド前事務局長はグローバル貿易について楽観的な見通しを示しています。ただし、独りよがりに陥らず、市場が貿易に開かれていることが条件です。
新型コロナウイルスの大流行が世界経済を打ちのめし、今年度上半期の世界貿易は激減しました。WTOのエコノミストたちは、貿易量は2020年に急激な減少を記録するものの、4月に予想された32%減少という最悪のシナリオには至らないだろうと考えています。WTOの統計によると、第1四半期の貿易取引量は前年同期比で3%減少しました。第2四半期の当初の予測は、前年同期比で約18.5%の減少となっており、この減少幅は歴史的な大きさで、記録上最も急激なものです。現在の状況では、今年度の残りの期間で貿易が四半期あたり2.5%成長すれば、2020年にマイナス13%という楽観的な予測を達成できます。しかも、2020年第2四半期に底を打ったかもしれない兆候も見られるのです。
前事務局長は、これは純粋に良いニュースだが安心はできないと述べています。生産高と貿易が2021年に力強く回復するためには、財政・金融・貿易政策のすべてが足並みを揃えて進み続ける必要があると指摘し、加えて次のように述べています。
「例えば、貿易市場を閉じることは、不確実性、供給ショック、生産性の低下、生活水準の低下を意味します。市場を貿易の流れに対して開き続ければ、その正反対となり、私たち皆が望む成長と雇用創出に役立つでしょう。」(2020年6月23日)