国際貿易関連機関インタビューシリーズ第2回はバージニア・ギンナン(Virginia Ginnane)が貿易円滑化グローバルアライアンスのディレクターであるフィリップ・イスラー氏と、国際商業会議所の国連常任オブザーバーであるアンドリュー・ウィルソン氏に、新型コロナウイルスのグローバル貿易への影響について話を聞きます。
イスラー氏とウィルソン氏は、貿易円滑化協定を実施する上で、また世界全体での物品の移動に伴う現在の課題を緩和する上で、貿易関連情報へのアクセスの改善がどのような価値を持つかに焦点を当てた、WTOの最近の調査を中心に語っています。
1. 世界的なパンデミックの中、貿易関連情報の実施を改善する必要性に対してどのように対応していますか。実施にあたり、どのようなところで失敗が見られましたか。
貿易円滑化グローバルアライアンス・ディレクター、フィリップ・イスラー氏の話:
この調査では、私たちが現場で目にしてきたことが確認されました。つまり、貿易関連情報へのアクセスの改善と国境当局間の協調の改善が、国境を越えた物品の移動を加速させるために政府が取ることができる中心的な施策だということです。私たちの経験では、各国が実施のための支援を要請することが多いTFAの要素の1つが、国境当局間の協力です。さらに、貿易プロセスのデジタル化は、貿易関連情報をより広く入手可能にし、国境当局間でさらに効果的に協調できるようにする上で、重要な役割を果たすことができます。
2.こうした実施の改善は、世界中のビジネスにとってどのような形をとるべきでしょうか。協定の実施を改善する上で、テクノロジーの役割はどの程度重要ですか。そのプロセスの中で、テクノロジーが最も価値を持つのはどこですか。
ICC国連常駐オブザーバー、アンドリュー・ウィルソン氏の話:

貿易プロセスのデジタル化がグローバル商業のレジリエンスを高める重要な機会であることは明らかです。ビジネス上では、ハードコピーの紙文書への依存がグローバル取引システムを脆弱にしたということが今回の危機により明らかになりました。
単一窓口などのデジタル税関システムを持つ国が、貿易の混乱に直面することが少なかったことを示す兆候がいくつかあります。パンデミックに対応して、貿易文書を紙の書式で提出することを義務付ける法的要件を撤廃する緊急改革を実施した政府が少数ながらあることは、励みになります。各国は、国境を越えた物品の調達の効率性を向上させる貿易円滑化措置の実施に取り組まなければなりません。
貿易円滑化グローバルアライアンス・ディレクター、フィリップ・イスラー氏の話:
TFAの実施に取り組んでいる国々は、パンデミックで悪化した貿易摩擦を減らし、国境を越えた物品の移動を加速させるために、今何が必要かを見極めるために、企業と協力すべきです。
例えばコロンビアのように、世界の多くの地域における危機の結果として生じた国境当局のデジタル処理に向けた動きには、非常に勇気づけられます。情報をより入手しやすくし、より広く貿易の効率性を向上させるプロセスの中心に位置するからです。
3.コロナ禍の影響をもっと広く見た場合、グローバル貿易産業にとって現在の大きな課題は何だと思いますか。
貿易円滑化グローバルアライアンス・ディレクター、フィリップ・イスラー氏の話:
新型コロナウイルスの情勢が展開する数週間から数カ月の間に、私たちは多くの局面を目撃してきました。危機管理から回復に至るまで、どのように混乱するか、どれくらい時間がかかるかという点から、考えられる影響について学びました。私たちは今、この「ニューノーマル」を、成功のレベルは様々ながら活かそうとしている状況にあります。
危機の初期には、多くの国が国家的な保護措置として輸出規制を導入しましたが、多くの後発開発途上国では、ウイルスと戦うための新しい措置が急速に導入されたため、国境に長い列ができていました。
これらはまた、新型コロナウイルスワクチンが完成した場合に特に重要な貿易円滑化の課題の例でもあります。ワクチンは冷蔵装置を使用して短時間で輸送する必要がある場合が多く、迅速に国境を越える必要があるからです。国境での手続きが遅れたり止まったりして、ワクチンが必要な人に届かないという事があってはなりません。
開発途上国と後発開発途上国がこの協定を実施するにあたり、国際機関や地域機関を含むドナーや開発パートナーがそれを支援するプログラムを提供し続けることが、極めて重要です。なかでも重要なことは、これを協調的な形で行う必要がある、ということです。
4.危機が今後も続く中で、こうしたビジネスの課題はどのように変化していくのでしょうか。
ICC国連常駐オブザーバー、アンドリュー・ウィルソン氏の話:
パンデミックの急拡大が抑えられるようになるまで、企業は国境を越える貿易の流れが周期的に途絶えることを想定しておく必要があります。不確実な状況がそのまま「ニューノーマル」となる可能性が高いですが、各国政府は税関のボトルネックを緩和し、開発途上国と後発開発途上国をグローバルなサプライチェーンにさらに深く組み込むために、地元企業と話し合いながらシンプルな措置をとることができます。
5.大きな解決策、企業がこれらの課題を克服するための大胆な戦略、今後の道筋は何ですか。
ICC国連常駐オブザーバー、アンドリュー・ウィルソン氏の話:
今回の危機では、レジリエンスの観点からも、また、パンデミック発生後にバランスシート上の重い負担に直面している中小企業にとって貿易が死活的に重要なライフラインになり得るということを確認する意味でも、貿易円滑化が極めて重要であることがはっきりしました。パンデミックの後、国際商取引のエコシステムを強化するために必要なのは、必ずしも大規模で大胆な対策ではありません。本当に重要なのは、誰でも、毎日、どの場所でも貿易を機能させられる改革です。
簡単に言えば、TFAは、調査で特定されたすべての問題を克服するために必要なツールを提供します。パンデミックを受け、希少な資源の投資収益を最大化するためには、介入の慎重な優先順位付けが必要です。
とりわけ、最近の混乱がもたらした勢いに乗じてデジタル貿易改革を加速するとともに、これらの施策が一貫した貿易政策アジェンダに含まれるようにする必要があります。パンデミック直後の衝撃が過ぎ去った後、各国が後戻りに抵抗することが不可欠です。
貿易円滑化グローバルアライアンス・ディレクター、フィリップ・イスラー氏の話:
また、一歩進んでTFAを実施するために政府と協力することも企業の責務です。企業は貿易の際に直面する障壁に関する豊富な知識と技術的な専門知識を持つため、現場で貿易円滑化措置をどのように実施するかを見極める際、政府にとってかけがえのないパートナーとなるということを私たちは経験上知っています。
貿易円滑化措置をとれば、貿易のコストを削減し、競争力、生産性、イノベーション、成長を刺激し、開発途上国と後発開発途上国のポストコロナと将来の経済成長を支援することができます。このようにして、世界の国々は開発のレベルを問わず、現在の危機のような規模のいかなるショックに対しても、よりよく備えられるようになります。当アライアンスは、各国や企業と協力してこれらの改革を実現することにより、将来の経済の成長や安定を支援する用意があります。
6.あなたが代表する企業の観点から、世界貿易の将来をどのように予測していますか。
ICC国連常駐オブザーバー、アンドリュー・ウィルソン氏の話:
パンデミック直後のグローバル貿易の将来がどのようになるかを語るには時期尚早だと思います。今後数カ月での政策の選択が最終的には今後数年間のグローバル商業の形を決め、ひいては将来の回復の軌道を決定する、というのが現実です。
ICCの観点からすれば選択肢は1つ、レジリエンスか撤退か、という単純なものです。前者のみがコロナ禍からの急速な回復をもたらし、外部要因によるショックを切り抜けてグローバル貿易の利益を民主化できる貿易システムを作り出せるのです。この危機からの希望の光があるとすれば、おそらく各国政府が貿易円滑化の戦略的重要性を認識し始め、およそ7年前にTFAの下で合意した常識的な規定の実施を全力で推進するようになることでしょう。